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TwitterリクエストSS『ひと夏の青い恋』
※Twitterでお題リクエストしていただいたSSになります。
お題→ピュアな旅先でのひと夏の恋
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指の間から滑り落ちる砂を眺めながら、三日前に出会った男のことを思う。
どうしたらそうなるのか、足が着くくらい浅瀬で溺れそうになっていたところを助けた男の名は七星。
七つの星と書いて七星だと自己紹介され、自分も奥沢と名乗った。なんてことない出会いだったと振り返りながら、指先で砂をつまむ。
「砂と遊んでて楽しい?」
人の気も知らない七星が屈託のない笑顔で尋ねてくると、隣に腰を下ろしてきた。
もうすぐ三十路だという割に童顔で、天然パーマだと自己紹介のついでに言われた。軽くカールした髪がいっそう幼く大学生にしか見えない。
「別に。ただ、お前といるのは楽しいよ」
「なにそれ。まぁ、俺も楽しい休暇だったけど」
サラリーマン同士で同い年の俺たちがたまたま出会い、たまたま同じ期間休暇を過ごした。きっかけはどうあれ初対面でも仲良くなれたのは、旅で開放的になっていたからかもしれない。
けど、七星にとっては旅先でのありがちな出会いくらいにして思ってない、多分。
今だって俺の話を冗談半分で聞くように、砂いじりをする手はそのままだ。
休暇が終われば俺たちは元の生活に戻る。
非日常的な南国での生活と七星との出会い。
男同士とはいえ、楽しかった毎日が明日で終わると思うと妙に寂しい。
「明後日から仕事か?」
「あぁ。奥沢もだろ。またしがらみの中で生きる生活だよ。かったりーな」
それなりに社会人になれば責任は付いて回る。お互い役職者ならではの酒のつまみにならない愚痴を言い合ったのは昨夜だった。
大して飲んでないのに、いつもより酔いが回るのが早かった気がする。
「めんどくさいよな、本当に。このままさ……」
このまま七星とここにいたい。
昨夜も、飲みながらぼんやりと考えていた。有り得ないと思いながらも頭の片隅で願ってしまう。けど、言葉にはできなかった。
情か愛情か、同性同士だからこそ気持ちに名前を付けること出来ないまま、今もこうして時間だけが過ぎていく。
「奥沢は駆け落ちしたことある?」
そんな俺に投げかけられた一言に一瞬思考が停止した。
「あ、あるわけないだろっ。急に変な事言うな」
動揺を隠すように砂をすくって手のひらに乗せ、サラサラと落ちるそれを眺めていると、不意に腕を掴まれた。
「じゃあさ、する?」
何をと口にする前にそのまま腕を引き上げられた。
「な、七星っ」
「俺と駆け落ちごっこしようよ」
「悪い冗談やめろよ」
そう言いながらも、数分前は似たようなことを考えていたなと思い出す。
「奥沢って下の名前は?」
「え、聡……だけど」
「……聡、行こう」
不意に名前を呼ばれ、俺の手を引き砂浜を歩き出す。
「おい、七星っ。ちょっと待てって」
「そらだよ」
「そら?」
「澄んだ空でそら……俺の名前」
「七星……澄空。凄い名前だな」
はにかむように控えめな笑顔は、頭上に広がる夏空よりも品があって澄んでいた。
「聡の行きたいところに行こう。バカンスはこれからだよ」
七つの星に澄んだ空。急に言い出した突拍子もない一言。どこまでも浮世離れた男だとつくづく思う。それでも、俺にはちょうどいいと思った。
澄空と駆け落ちするようにバカンスを楽しむのも運命だと勝手に口実を作れる。
砂に足を取られ、もつれる澄空の腰に腕を回すと少しだけ耳が赤くなった。
純情なそれに毒されるように引き寄せると、砂が軋む音に紛れるように素早く身を屈めてキスをする。
澄んだ空の下、熱くなる身体を冷ますように海へと歩き出すと、ひと夏の恋は波に溶けるように青く色を付けた。
END
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