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TwitterリクエストSS『劣情の雨』
※Twitterでお題リクエストしていただいたSSになります。
お題→兄弟
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数寄屋造りの離れに向かう足取りは軽いのか重いのか……。ただひとつハッキリしていることは、昨夜からの雨はまだ降り続いていて、気分は最悪だと言うこと。
「ただいま」
平屋の軒下でダークネイビーの傘を閉じて傘立てに収める。ガラガラと引き戸を開けると、弟が玄関で待ち構えていた。
「おかえり。まだ雨降ってるんだ」
「あぁ、土砂降りだ」
肩に落ちた雨の雫を払うと、瞬く間に細かく散っていく。
「タオル持ってきてやろうか?」
「いや、大丈夫だ。すぐに風呂入るから」
オーダーメイドで仕立てた靴を汚してもさほど気にならない。代えはいくらでもある。
泥だらけの革靴を脱いで玄関に上がり、いつもなら靴箱に仕舞うが今日はそのまま端に寄せた。
弟の横を通りすぎて風呂場に行こうとした時、徐に腕を掴まれる。狙っていたのだろうと気づいたけど、気づかないフリをして気のない一言を放つ。
「なんだよ」
思いのほか低く発した声に動じるわけもなく、弟が口を開いた。
「いや、別に。今日はスーツだったんだな」
俺たちの家は老舗呉服屋を営んでいる名家だ。俺は大学を出てからなんとなくで仕事を継いでいる。だからいつもは和服で過ごすことが多く、商談に行く時くらいしかスーツは着ない。
「東雲様のところへ行ってたからな」
「あのエロじじい……」
「今日は何もされてない」
今日はという一言に、弟の眉が微かに吊り上がったのを見逃さなかった。
「……本当だろうな」
掴んだままの腕に力が入ってグイッと引き寄せられる。歪んだ顔が間近に迫ると、すぐに視界は遮断された。
重なる唇の先に何を求めるか、流されながらふと考えて薄く口を開ける。荒々しいそれは、言葉では言い表せないくらいに官能的で尾を引いた。
「恵……」
兄貴とは呼ばずに名前を口にする時はこんな時だけだ。だから、仕掛けるような事を平気でする。
鼻に抜ける少し掠れた声に身体が熱を持ち、形だけの拒むフリをした指先が震える。
「……んっ……確かめた、ら……っ……」
確かめたらいいとキスの合間に誘うと、返事の代わりに舌が絡まる。軽く頭を振ってそれを早々に交わすと、首筋に熱い息がかかった。
「風呂場で確かめてやる」
「圭はしつこいからな。夕食までには終わらせろよ。本家に行けなくなる」
離れで生活していても、夕食は本家で取る。神咲家には他にも色々とルールがあるがどれも形式ばったもので、破ったところで何か罰を与えられることもない。けれど、兄として率先して破るのはどうかと思い、とりあえずはルールを守ろうとする。
「そんなの、こっちに運ばせたらいいだろ」
兄弟だから、禁忌だから。俺たちには見えない境界線がある。けど、ずっと瀬戸際で保っていた惰性を崩すのは簡単だった。どちらかが仕掛ければいいのだ。そうすれば理性は簡単に崩れる。俺はそうやって弟を狂わせ、神咲家のルールは守っても世間のルールを平気で破る。好きとか必要とかそんな生ぬるい感情じゃないから仕方のないことだ。
二人で堕ちればいいだけのことだと、そっと身を任せると身体が強ばった気がした。
お前が望んだことだろう?
心の中で問いかけ、戸惑う弟の口を塞ぐとゆっくりと目を閉じ「……なら、行くのが遅くなると連絡すればいい」と、囁いた。
END
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