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TwitterリクエストSS『甘い誘惑と夏の色』
※Twitterでお題リクエストしていただいたSSになります。
お題→音楽フェスで出会う二人。互いの素性を明かさないまま楽しく過ごして、休み明けに出勤したらスパダリドSに豹変した攻
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傷心旅行のついでにフェスに寄ったのはたまたまだった。
彼女……ではなく、彼氏と喧嘩別れしたのは数日前。いわゆるそっち側の人間なわけで、それなのに好きになるのは何故かいつも決まってノンケだった。
「人生上手くいかないもんだな」
「急にどうした」
「……いや、なんとなくさ」
それほど大きくないテントの入口に男二人で並んで座り、何をするわけでもなく缶ビールを傾けながらまどろむ。三十ちょっとの俺より十個年上だと言った男が、手にしていた缶ビールを一気に飲み干した。持参したらしいテントは大人二人が寝るには狭く、今も汗ばんだ肌は適度に密着している。
さっきからぽつぽつと会話のキャッチボールをしては黙り、決して場を乱すことなく、もちろん「なんとなく」がどのことを言ってるのか突っ込むこともしない。大人の余裕なのか、そんな雰囲気も心地よい。
遠くから聞こえていた歌声が止むと、歓声が沸き上がった。
行き交う人々は皆楽しそうで、落ち込んでいる自分だけが取り残されているような気にさえなる。
「悠太郎……」
昼飯を買うのに屋台の列に並んだ時、後ろにいた男が悠太郎だった。前後で並んでいるうちにお互い一人参加ということで意気投合し、恋人にフラれた話は流れでなんとなく話した。
今日会ったばかりの悠太郎に恋人がいるのか、結婚してるのか……それも不明で、話してる感じではなんとなくノーマルぽい。
名前を口にした後、言葉に詰まる。コイツにどこまで話していいものか……そう思った時に手を握られ立たされた。
「失敗も失恋も経験値を高めるんだ。啓太がいい男でいないといい男には出会えないぞ」
「え……」
「ほら、行くぞ。俺が好きなアーティストの出番がそろそろなんだよ」
全てを見透かしたような妙に説得力ある助言は、俺の心を動かすには十分だった。
そのままスマホを取り出し、片手で器用にタイムテーブルを確認する指先に視線を移すとあることに気がつく。
「もしかして、お前……」
「何事も経験だ。つーか、明日もそんな顔してたら襲うぞ」
いきなり放った一言は、ツッコミどころが満載で情報処理が追いつかない。
明日はお互いに日常に戻る。なのに、どうして……。けど、どうせ意味なんてないだろう。そう思い直し、「勝手にしろ」と冗談交じりに返事をすると、飲み干した缶ビールを近くのゴミ箱へ投げ入れた。
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「だからって……酷くないですか」
「似た者同士だろ。でも、結果よかったんじゃないのか?」
「全然よくないです」
冗談だと思った一言がまさか本気だったなんて聞いてない。しかも……
「あの……社長」
休み明けに出勤すると社長室に呼ばれ、いかにも高そうなスリーピーススーツ姿の悠太郎と再会した。あっさりとバラされた素性に空いた口が塞がらない。
まさかフェスで楽しく過ごした相手が、自分が働いてる会社の社長だったなんて。
「啓太の弱ってる顔はヤバいな。うっかり勃ちそうになった」
しかもびっくりする俺に追い討ちをかけるように、昨日とは別人のように悠太郎は意地が悪いことを言ってくる。
堂々とした立ち振る舞いに、明らかに高いスリーピーススーツ。口調も昨日よりいい意味で高圧的で、まさに社長という貫禄が滲み出ていた。
「ちょっと待って……ください。俺、社長だって知らなくて……だから、社長と俺とは」
「社長社長ってうるさいな、悠太郎て呼べばいいだろ。それにせっかく知り合ったんだ、これからも傷の舐め合いっこしようぜ」
「舐め合いっこて……」
不意に掴まれた腕を見下ろす。薬指に日焼けの跡があったのを見逃さながった俺は、真正面から切り出した。
「社長も、離婚……されたんですか」
「まぁな。男か女か当ててみろよ」
ノーマルだと思っていたから気にもしなかった。でも、男同士でも誓いあって指輪を付ける場合もある。だから、ダメ元で聞いてみた。
「男……?」
「残念だな、女だ」
無意識に期待していたのか、ガックリと肩を落とす自分に驚いたのと同時に視界が暗くなる。口を塞がれたと気づいた時にはもう遅かった。キスが全てを帳消しにしていくように、それはしばらく続いた。
「ノーマルのくせに何してんだよっ!」
「俺はどっちでもイけるんだ。だから、啓太が言った通り勝手にさせてもらう」
昨日、冗談で返した一言を思い出し事の重大さを思い知らされる。
「いや、あれは冗談で……」
「俺は本気だ。だから、これは二人だけの秘密だぞ。いいな」
人差し指を立て口元に当て、意地悪い笑みを浮かべた悠太郎と目が合う。
視界が暗くなる寸前に目に入った薬指の指輪の跡は、日に焼けて少しだけ薄くなっていた。
END
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