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シュガーポットにラブレター~君の肩越しに永遠が見える~

 ずっと前から何度も同じ夢を見る。  銀色に輝くシュガーポットを大事そうに抱えている自分の姿だ。俺がいる部屋は他にも多くの銀食器が並び、どこか洋館のような高貴な造りだった。 『そんなに大事ですか?』 『もちろん。これはお前が贈ってくれたんだ、決まってるじゃないか』 『でも、あの地へは持っていけませんよ』 『わかってる。全て捨てていく』 『本当は、手放したくありませんが……』 『どっちを』 『もちろん、貴方です……』  夢はそこで終わり、目が覚める。いつも、決してその先を見させてはくれない。  俺はその男から伯爵と呼ばれていた。男は、俺よりも爵位が低い……いや、身の回りの世話をしている執事のような立場だったのかもしれない。けど、二人の関係は当主と執事だけではないような雰囲気があった。  何故、こんな夢ばかり見るのか……。  ベッドから起き、寝ぼけたままの脳を揺さぶるように頭を左右に振ると、同時にドアをノックする音が室内に響いた。 「お目覚めですか、旦那様」  アーリーモーニングティーのため、銀色に輝くティーポットやカップを乗せたベッドトレイを持った男が部屋に入ると、ゆったりと声をかけてくる。 「あぁ」 「またあの夢を?」 「どうしてわかった」  ティーポットからカップに紅茶を注ぐと、男はいつもより長く息を吐いた。 「実は、私も同じ夢を見ました。正確には、続きもありましたが……」 「続き?」  聞きながらソーサーごとカップを受け取ると、何気なく視線を落とす。  芳醇な香りを漂わせたそれは、何の変哲もなくいつも通りだ。温かい湯気をまとわりつかせながらひとくち含むと、ほのかな渋さが口の中に広がり一気に目が覚める。 「……旦那様、こちらに見覚えがありませんか?」  答えを告げる代わりに差し出してきたのは、意外な物だった。 「こ、これ……」  目の前の置かれた銀色のシュガーポットに、一瞬、現実か夢かわからなくなる。ただ、夢の中よりも薄汚れていて銀色もだいぶくすんで見える。 「中を覗いてみてください」  受け取り、控えめに付いたつまみを持って蓋を開けたが、中を覗いても何の変哲もない。 「別に変わったところはないけど……」 「奥をよく見てください」  言われるがまま顔を近づけ、片目を瞑って更に奥を覗いてみる。すると、内側の側面に何か記されていて……その言葉を目にした途端に酷い頭痛に襲われた。そのまま頭の中で火花が散るような感覚に襲われ、後に、走馬灯のように色んな映像が流れ込む。  そして全てを理解したように無意識に涙が溢れた。 「夢の意味……やっと……分かった」  どれだけ続きを見たいと願っても叶わなかったのに皮肉なもので、今なら何もかもが鮮明に脳裏に浮かび上がってくる。 『伯爵、お時間です』  全てを捨てると言った俺の手からシュガーポットを奪うと、男は部屋を出ていく。  アイツの肩越しに見た永遠は、掴んだ砂が手からすり抜けるようにあっという間に消え去り、それでも俺たちはまだ見ぬ未来へと願いを込めて二人だけが分かるその場所に想いを記した。  〝来世で必ず一緒になろう〟  ……と。  決して結ばれない二人が託した願いは、こうして時を超えて果たされようとしてる。 「お前が見た続きって……」 「あの時できなかったことを、今してもよろしいでしょうか?」  数百年越しに、俺たちが果たせなかったことを今の俺たちが果たす。  お互いが引き寄せられるように交わした初めてのくちづけ。それは情緒的なのに酷く官能的だった。 「赤い糸はどれだけ時が経っても切れないものなのですね」  息がかかる距離で愛する男が囁くと、頷きながらその口を塞いだ。  頬を辿る少し冷たい指先。  親指の腹で優しく涙を拭う仕草。  どれもあの頃と変わらなくて、それだけで胸が苦しくなる。  そして眠っていた愛はやがて色濃く蘇り、運命の赤い糸はしっかりと結び直された。  END

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