11 / 19

第11話

政行さんの背中には肩甲骨辺りに爪で出来たと思われるみみず腫があった。 そのあまりの生々しさに自分の掌に顔を埋めてしまう。 そんな俺に気が付いたのか政行さんが不思議そうにしたが、背中の違和感に気が付いたのかニヤニヤと笑いはじめる。 「どうした?」 「な、なんでも?」 シンプルなTシャツを着た政行さんが、俺の手を取って顔を覗きこんできた。 俺は気まずくて顔を反らすが、ニヤニヤ笑っているのが分かるので俺は政行さんの顔を見ることができない。 「これは何て誤魔化そうかなぁ?」 「え…」 政行さんが俺の手を離して自分の肩に手をやる。 その時言われた言葉に、俺は全身の血の気が引くのを感じた。 当然だ。 実母を裏切り、義父と肉体関係を持ってしまったのだから。 しかもその義父である政行さんは俺を妊娠させる気満々だから始末に負えない。 「あ…どうしよう…俺、俺…」 「優希は心配性だなぁ。そんなの考えていない訳がないだろう?」 俺が事実に震えはじめると、政行さんはニヤニヤとしたまま俺を抱き締めた。 俺に言い聞かせるみたいに耳元で優しく語りはじめる。 政行さんは母さんと結婚した時から俺を手に入れる為に色々と計画を立てていたらしい。 「あいつには別の相手を用意してあるし、向こう有責で別れる事なんて造作もないことだ。それより優希のバース性が安定する前に手に入れられて本当に良かった」 政行さんは機嫌良く俺の下腹部を撫でる。 撫でられているところから腹の奥がキュンキュンと疼きはじめた。 胸も政行さんの手の温もりに反応しているような気がする。 顎を取られどんどん政行さんの顔が近付いてきて唇が触れた瞬間、後頭部が痺れた。 「俺より、自分の事を心配したらどうだ?こんなスケベな痕をいっぱいつけてたら、週明けの学校が楽しみだな?」 「え…」 舌を絡め取られ、舌に軽く歯を立てられたかと思うと直ぐに政行さんの顔が離れていく。 少し名残惜しく感じている俺に政行さんがまたしてもニヤニヤと笑いながら言った言葉に俺は我に返る。 ジャージの袖がめくれて見える手首には縛られてできた鬱血の痕がくっきりと残っているし、身体にも同じあとが残っているだろう。 自分では見えないが、昨晩の情事の時に首を噛まれた記憶があるのでその痕も残っているはずだ。 当然こんなあとを友人や、ましてや母さんになんて見られる訳にはいかない。 「しかも、部屋を出るときからプラグを入れてるの忘れてないか?」 「ひぅっ!!」 するりと太股の間を通ってジャージ越しに孔に埋められたプラグを指先でコツンコツンとノックされて俺は身体が竦み上がる。 その勢いで政行さんの腕を太股で強く挟んでしまった。 「折角今から出掛けようと思ったのに、そんなに強く握ったら服が皺になっちゃうぞ?」 「え…あ…ごめんなさい」 政行さんに言われてはっと、政行さんの服を掴んでいる事に気が付いた。 すぐに服から手を離して、足の力も抜く。 「うわっ!ちょっ!!」 「プラグ抜いておかないと出かけられないだろ?」 すぐにズボンをずるりと引き下ろされてしまって慌てていると、政行さんは当然の事の様に言い放つ。 言っていることは正しいのだが、事前に言って欲しかったとじと目で政行さんを見上げると誤魔化す様にキスされてしまった。 その隙にプラグに手をかけられる。 「んんっ。んむっ…ふぁっ」 舌を絡められている間にプラグを引かれ、またしても政行さんの服を強く握って刺激を逃がそうとした。 一番太い部分が抜けると、後はすんなりと抜ける。 プラグが抜けた瞬間に、中に出された精液が空気を含んだ下品な音を立てて逆流してきた。 「上手く受精してるといいな…」 「や…やだ」 「優希は本当に甘えん坊だなぁ。こんな甘えん坊でちゃんとママになれるのか?」 顔を離され俺がもっとキスをして欲しくて首を伸ばすと、政行さんが俺の腹をまた撫でて笑う。 政行さんは俺をからかいつつまたキスをしてくれた。 ちゅっちゅっと音を立てつつ唇を合わせるだけのキスや、舌を絡める大人のキスまでしてくれる。 キスをしながら垂れてくる精液を拭き取ってくれるのが嬉しい。 ちらりと目の端に映った精液は透明になっていて不思議な気分だったが、俺は政行さんのキスにまだ甘えていたかった。 「ほら。終わったぞ?これからデートに行くんだから、こっそり買ってきた洋服でお洒落しておいで」 「何で知ってるんだよ!!」 実はこの旅行が楽しみ過ぎて、俺はこっそり小遣いでファッションに強い友達と洋服を買いに行っていた。 友達にはいつ彼女ができたんだとか、ファッションに疎かったのに優希にも春が来たのか等とからかわれながら選んだ服をこっそり持ってきていたのだ。 友達にからかわれ、恥ずかしい思いをしてまで買って驚かせようと思っていたのに何故か政行さんにはバレバレだった。 しかも、服を買いに行ったのは学校帰りなので政行さんは知らない筈なのに不思議な事に政行さんはその事を知っていた。 「隠し事は上手いことしないとな。鞄が開いてたぞ?」 「まじか!驚かせようと思ってたのに!!」 「ほら。駐車場が混むから早く着替えてこい」 「はーい」 政行さんの言葉に、自分のうっかりを悔やむ。 仕方がないので俺は部屋の隅に置いてあるバッグの中から着替えを取り出して部屋に備え付けの風呂場の脱衣所にそれらを持っていく。 着せられたジャージを脱いで、インナー変わりのTシャツに手をかけたところで脱衣所にある洗面台の鏡にうつった自分の身体が目に入った。 予想していた以上に色々と凄いあとが身体中に残っていて俺は焦る。 「うわぁ。隠れるかな…」 ジーパンを履いてから、改めて首筋を鏡で見てみると小さな鬱血痕と縄のあとが胸で交差していた。 悩んでいても仕方がないので俺はさっさと着替えて、トップスのシャツで首元を隠すことにした。 少し真面目っぽいが前を閉めてシャツをきっちり着れば隠れるだろう。 ボタンを全て留めてからジャージを持って政行さんのところへ戻る。 「きっちりボタン留めて行くのか?」 「どこかの誰かが痕を残したからね」 「ふーん。じゃあ、これ着ければ問題ないよな?」 「え…」 政行さんが差し出して来た物に、流石の俺も顔がひきつった。 政行さんは犬用と思われる少し太めの首輪を俺に差し出してきたのだ。 何かの冗談かと思って目を擦ってみるが、間違いなく首輪だった。 こんな物外にしていける訳がないだろう。 「何…これ?」 「見たまんまだろう。首輪だよ」 「いや、それは分かってるんだけど…そんなの外にしていけないだろう」 「優希はまだΩ用の首輪見たこと無いのか?」 「え?何でΩ用なんて…」 「Ωはαに首を噛まれると強制的に番になるんだよ。しかもαは一方的に番の解消ができるが、Ωはそれができないから無闇に番にさせられない様に貞操の意味で首輪をして首を守るんだよ」 「へぇ」 政行さんの説明に思わず納得して首輪を受けとる。 確かに犬用等に比べると幅が太く、首を守れそうだなと思って首輪を見ていてふと我に返った。 俺はβなので、そもそもΩ用の首輪など要らないのだ。 βはαに首を噛まれても番になることはできない。 その証拠に、本来Ωであればαが噛みついて番になった痕がずっと残るのだが、βの場合は傷と同じなので噛まれても自然に治ってしまう。 「俺…βだし」 「ふーん。優希は俺と番だって事を見せつけたいんだな?」 「は?」 「いくらβでも昨日つけた痕は消えないだろう?それに、まだバース性が不安定なうちは突然変異って可能性もあるしなぁ」 「え?なに?」 俺が首輪を返そうと差し出すと、政行さんは俺の髪の襟足部分を少し持上げて覗き混んでくる。 確かに噛み痕はずっとは残らないが、真新しい傷は別だ。 俺は手で首筋を隠して焦るが、政行さんが離れていく時にぼそりと呟いた言葉が聞き取れずに聞き返す。 しかし、政行さんはニヤリと笑うだけで答えてくれる気はないらしい。 「どうした?首輪すると興奮しちゃうか?」 「違うし…すればいいんだろ!!」 挑発されて俺はついつい首輪を首に巻いた。 きっちりボタンが留まっているせいで巻きにくいので、仕方なくボタンを数個外してベルトを通そうとするが、見えないせいで上手くいかない。 もたついている俺を見かねて政行さんがベルトを通してくれた。 きゅっと締め付けられる感覚に意識していないのに胸が高鳴ってしまう。 「これなら、前を開けても大丈夫だな」 「えっ!自分でできるから!!」 「いいから。いいから」 首輪を巻き終わった政行さんは顎に手をやり、少し考える素振りをした。 すぐに俺のシャツに手がかかり、留まっているボタンが外されていく。 俺はそれを止めようとするが政行さんは楽しそうにボタンを外していく。 少し昨日の事を思い出してドキドキするが、政行さんは俺を少し遠くから見て満足そうに頷いた。 「さぁ行くか!」 「う、うん!!」 政行さんに手を取られ、ぐいっと引き寄せられる。 俺は戸惑いつつこくりと頷いた。 手を繋いだままフロントを通らず車に乗り込む。 政行さんはサングラスをかけてからエンジンを起動させる。 サングラスがかっこいいなと思っている間に車は目的地に向けて発進した。

ともだちにシェアしよう!