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第12話

車は海沿いを走っていく。 今日は天気が良く、水面に太陽が反射してキラキラと光っているのが車窓から見える。 昨日はぼんやりと流れていく景色をただ見ていたのと、そんな心の余裕が無かったから景色まで気にする暇は無かったが今日は違う。 「今日は少し暑くなるみたいだぞ?」 「へぇ。でも、これだけ晴れてたらそうかも」 「今から行くところは屋内だから心配ないけどな」 「そう言えば、今から何処に行くの?まさか、昨日みたいにラブホに直行って事はないよな?」 俺が冗談混じりで行き先を聞くと、政行さんは横目でこちらをちらりと見たのがサングラスのレンズ越しでも分かった。 クスクスと小さな笑い声に、少しムッとして政行さんを睨むと更に笑う声が大きくなる。 「そうか…優希は、ホテルで俺とまだ種付けセックスしたかったのかぁ」 「なっ!!ちがっ!!」 そう言う意味で言った訳では無かったのに、政行さんにからかわれてしまって俺は反論しようと言葉を紡ごうとするが、言葉が続かなかった。 確かに、昨日家から出かける時は政行さんに何をされるのか想像するだけで身体が疼いてしまって上手く思考が回っていなかった。 そもそもチェックインの時間が来ていなかったのもあるが、ホテルに連泊するのにも関わらずラブホテルに直行したのは少々浮かれ過ぎだったかもしれない。 しかし、家では何度もすん止めだったり声が出せなかったりと母さんが居るという不自由さが俺達を余計に燃え上がらせていたのも確かだ。 「分かってるって。今日もあのホテルに泊まるんだから夜になったらまた、たっぷり種付けしてやるからな?」 「え…」 「あははは!そうかそうか…優希は種付けセックスして欲しかったんだな!」 政行さんの言葉につい反応してしまって、若干高い声が出てしまった。 それを聞き逃さなかった政行さんは更にニヤニヤと笑っている。 昨晩の事もあって期待してしまうのは仕方ない事だとは思うが、そんなに笑うことは無いだろう。 俺は火照る頬を隠す為に、また窓の外の流れていく景色を眺める。 「やっぱり混んでるな」 流れていた景色の流れが遅くなり車が混みはじめたなと感じて居ると、政行さんから溜め息がもれる。 前方にも車が続いているが、サイドミラーをチラリと見ると後ろにも車が繋がっていた。 少し遠くだが水族館という大きな看板が見える。 「水族館に行くの?」 「行ったこと無いって言ってただろ?」 俺がいつ言ったか分からない何気ない一言を覚えていてくれたのが嬉しくて、口許が緩むのを感じてすぐに口許を手で隠す。 それすら政行さんはお見通しなのか、小さな笑い声が聞こえた。 「そう拗ねるなよ」 「拗ねてない!」 政行さんの方へ視線を合わせないのを拗ねていると勘違いしたのかと思ったが、これは分かっていて俺の事をからかっているのだろう。 ギアから手を離して頭に手を置かれる。 髪をぐしゃぐしゃとされるのかと思ったが、手は思いの外優しく髪を撫でられた。 またしても口許が緩みそうになったので、今度は気を引きしめる。 「ひぅ!」 「どうした?」 「ちょっ!どこ触って…」 頭から手が離れて行ったのを寂しく思ったのもつかの間、政行さんの指が右の乳首を掠めて行った。 驚いて思わず体をドア側に寄せる。 政行さんはなに食わぬ顔でまたしても前方を見ていた。 本当にこのスケベ親父は、隙あらば人にセクハラをしてくるのだからたちが悪い。 「そ、外ではやめろよ!」 「一応車の中なんだが?」 「それでも車がこんなに混んでるんだから外からは…み、見えるだろ!」 俺が抗議したところで、政行さんは俺の言葉など右から左だ。 少し車が進むのか、再びギアへ手を持っていく政行さんへ俺は子供っぽいが頬を膨らませる。 こんなじゃれあいも家から出てきた時には考えられなかった。 それだけお互いに切羽詰まって居たのかと思うとこんなくだらない言い合いも楽しく感じる。 「そういえば、後ろのシートにお菓子があるぞ?」 「え?持ってきたの?」 「お前が楽しそうに用意してたじゃないか」 「あー。そう言えばそうだったかも」 そう言えば、昨日は最低限の荷物しか持って降りなかった事を思い出した。 俺なりに旅行は楽しみにしていたので、遠足のノリでお菓子を用意して持ってきている。 それを政行さんの車の後部座席に乗せたのをすっかり忘れていた。 手持ちぶさたなのと、少し口寂しいのもあって何か取り出そうと思いシートベルトを外す。 座席を少し倒して、体を反転させた。 シートの背もたれ部分へ膝をついて、後ろへ手を伸ばす。 後部座席にはシンプルなトートバッグが置いてあり、上部からは袋菓子が覗いている。 「うわっ!だから、セクハラやめろって!!」 上部から見えている菓子でも取ろうかと思って腰を高く上げたところで、尻に何かが触れた。 すぐに政行さんに尻を触られたのだと分かって振り返るが、既に手はギアの上にある。 半密室の車の中でのイタズラは必然的に政行さんしか居ないので、そ知らぬふりをしようとも犯人は一目瞭然だ。 「ぷりぷり触って欲しそうな尻があったから触っただけだぞ?」 「それをセクハラって言うんだよ!」 トートバッグから適当な菓子を摘まんで、前に向き直りシートに座ると背もたれを戻した。 俺がシートに座ったのを見届けていた政行さんが悪びれもなく言い放つ。 運転をしている癖に政行さんはとても暇らしい。 俺は手に持っているお菓子の袋を両手で開けると、袋の中の1つを摘まみ上げた。 「政行さん?」 「なんだ…うぉっ!」 俺がなるべく穏やかに声をかけると、政行さんの顔がゆっくりとこっちを向いた。 顔がこっちを向いた瞬間に、手に持っていたお菓子を政行さんの口に放り込んでやった。 「なんだこれ…あっま!」 「あはははっ!!」 何事が起きたのか分からない政行さんは、驚いた表情になったので俺は盛大に笑ってしまった。 俺が手に持っていたのはチョコレート菓子で、その一粒をイタズラで口に放り込んでみたのだが政行さんは甘いものが苦手なのかもしれない。 俺も一粒口に含むと、チョコレートが舌の上で溶けて鼻には香ばしい様な甘い独特の香りがあがってくる。 俺がチョコレートを楽しんでいる間、政行さんは渋い顔をしていた。 「あと少しだな…」 前の車が警備員によって案内されたのを見送ったところで、政行さんが小さく息を吐いた。 車についている時計を見ると、車が渋滞しはじめてから30分ほど経過していたが思ったより時間は経っていなかった。 俺達の車もすぐに警備員によって誘導を受けて無事に駐車することができた。 「降りるか」 政行さんがサングラスを外してケースの中に仕舞うと、軽く伸びをした。 俺もシートベルトを外し、手に持っていたチョコレート菓子の残りを口に放り込んでパッケージ小さく折り畳んだ。 「運転してくれてありがと!」 「なんだよ…急にしおらしい事行っちゃって」 「うわっ!やめろ!髪がぐちゃぐちゃになるから!!んっ!!」 俺が素直に礼を言うと、政行さんの大きな手が頭に乗った。 その大きな手で頭をがしがしと撫でられると、髪がぐちゃぐちゃになってしまう。 俺が政行さんの手を払おうとすると、持ち上げた手を掴まれる。 そのまま手をぐいっと引っ張られ身体を引き寄せられた。 顔が近付いて来たので、反射的に目を瞑ると柔らかい物が唇に触れてすぐに咥内に生暖かい物が入ってくる。 すぐにその生暖かい物が俺の舌を捕らえた。 ぷちゅぷちゅという舌を絡ませる音が俺の口の端からしている。 「あっま!」 「ふふ。政行さんが勝手にキスしてきたのがわるいな」 政行さんが口を離した瞬間、政行さんの眉間に大きな皺がよった。 俺はその反応に、車の中で何するんだという抗議の声をあげようと思っていたのだがつい笑ってしまう。 俺は改めて車の外を見ると周りに車は沢山停まっているが警備員含め人が居らず、人が引いたタイミングをみはからって俺にキスして来たことが分かる。 用意周到なんだと小さくため息が出た。 「折角知り合いの居ないところなんだから、中は腕を組んで回るか?」 「うーん」 「今日は首輪してるからΩと間違えられて、トイレに連れ込まれるかもしれないぞ?」 「そんな政行さんみたいな人早々居ないよ!」 「こんな日の高いうちから、こんなところに来て乳首勃起させて期待してるのも優希くらいだと思うけどな」 「はぁ?」 俺が腕を組んで歩く事を渋ると、政行さんがとんでもない事を言ってくる。 そんなΩだからと言っていきなり襲ってくる人なんて居ないだろう。 ましてや水族館なんて公共の施設だし、何よりΩだろうと強姦は犯罪だし人権侵害にもなりかねない。 俺だってそれくらいの事は学校で習っているのだから常識的な事だ。 そんな政行さんに反論をすると、思わぬ反撃を受けてしまった。 政行さんの言葉に胸元を見下ろすと、服の上からでも分かるほど乳首がくっきりと見えている。 俺は慌てて上着の前を閉めた。 「そんなスケベな乳首見せ付けて、何もない訳ないだろ?」 「わ、分かったよ!離れなきゃいいんだろ!」 俺がむきになって答えた事で、政行さんの表情が明らかに明るくなった。 ニヤニヤ笑う政行さんに腹がたったが、しかし自分の身体が何かを期待して反応しているのだから大きな事も言えない。 まんまと政行さんにのせられた感じだが、やっと車から降りて水族館へ向かった。 その道中も手を繋いで歩いたので変に気恥ずかしい。

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