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第13話

駐車場から施設までの距離が少しあったので予想通り気温が上がってきたということもあってか、お互いの額にうっすらと汗が滲む。 「少し暑いな」 「だいぶ陽ものぼってきてるからね」 「優希がおねだりしたせいで、出てくるのが遅れたからじゃないか?」 「は?違うし!」 他愛もない話をしていると、政行さんの手が俺の首筋をするりと撫でる。 俺は思わず飛び退いてしまったが政行さんはにやりと笑っていた。 俺は首筋を守る様に押さえたところで掌に当たる首輪の感触に更に体温が上がった気がして、邪念を払うようにぶるぶると首をふる。 「きゅ、急に触ると驚くだろ!!」 「まるで猫だな。首輪に鈴でも着けるか?」 政行さんが小さな笑い声をあげたので、俺は腹が立って小走りで先に進んでいく。 少し進んだところで振り返ってみたが、政行さんはのんびりと歩いて来ていたのでそれにも少し腹がたった。 俺だけがはしゃいでいるみたいではないか。 それがなんだか納得いかなかったが政行さんと並んで歩くとろくなことが無いので、気持ちを切り替えて先に行くことにした。 建物に近付いてくると、やはり周りに人が増えてくる。 「休みだから混んでるなぁ」 建物の前に到着すると、人の多さに驚いた。 チケットを買うための列が長く伸びていて、これに並ぶのかと思うと気が滅入りそうだ。 しかしそんなことも言ってられないので、列に並ぼうと最後尾に近付いていく。 「優希!そこには並ばなくていいぞ?」 「え?うわっ!」 後からぐいっと腕を引かれ、体のバランスが崩れる。 そのまま政行さんの方へ倒れたところを抱き止められた。 周りに人は沢山居たが、グループごとに談笑をしていて俺達の事を気にとめていない事に俺は安堵する。 「前売り券を秘書に用意してもらってるから、並ばなくて大丈夫だぞ?」 「へぇ。政行さん秘書さんなんて居るんだ」 「ここは暑いから早く中へ行くぞ!」 政行さんはスラックスのポケットからチケットが出てきた。 秘書という言葉に政行さんはいいポストなんだなっと思ってしまった。 俺が意外そうな顔をしたからか、政行さんに腕を掴まれて引っ張られるみたいに入り口に向かっていく。 「はー。やっぱり建物の中は涼しいな」 「ほらチケット持ってろ」 自動ドアをくぐると、建物は外の喧騒が嘘の様に静かだった。 何よりも館内は涼しく、入り口から照明が少し暗くなっている。 先程の暑さから解放された為、俺は大きく息を吐いた。 チケットを渡されたのも素直に受け取って受付の人に渡すと半券が返ってくる。 「じゃあ行くか」 受付を抜けて少し歩いた所から展示がはじまっている。 俺は政行さんに誘導されるがままに展示を見ていく。 クラゲや深海の魚達に小さな海の生物達。 どんどん水槽の規模が大きくなっていき、ペンギンやセイウチなどの水辺の生き物のゾーンで俺は釘付けになった。 「かわいい!!」 「ん?あぁ。ラッコか…」 思わず声が出てしまう程かわいらしい生き物が水槽の中に居た。 ちょうどご飯の時間だったのか、飼育員さんにイカやら貝を貰っている。 立ち泳ぎでイカを貰うと、すぐ仰向けになって口をモグモグさせはじめた。 イカを食べ終わるとすぐに飼育員さんのところへ戻って次のイカを貰っている。 イカが終ると次は貝を貰って、お腹の上でコンコンと叩いて中身を食べた。 俺はその一連の行動に釘付けで、政行さんが俺の腰を抱いている事に気がつかなかった。 「うわっ!奥のやつお腹の上に小さいのが居る!」 手前のラッコに気を取られていたが、奥の方にも何匹か居てそのうちの1匹のお腹の上に小さいラッコが乗っている。 腹に小さな子供を乗せているラッコはその小さなほわほわした毛玉をペロペロと舐めて毛繕いをしはじめていた。 そんな姿も愛らしく、俺はそれに釘付けとなる。 「そんなにラッコが気に入ったのか?」 「すっごく可愛い!特に赤ちゃんなんてふわふわで綿毛みたいだし!」 どれくらい水槽の前に居たのか分からない位俺はラッコたちの動きに釘付けだった。 もう少しラッコを眺めて居たかったが、どんどんと人が増えてきたので水槽の前から移動する事にした。 熱心にラッコを見ていた俺に政行さんは不思議そうに声をかけてきたが、いかにラッコがかわいかったかを熱弁した事により少し苦笑いされてしまった。 別の水槽の前に行く頃には俺の機嫌はすっかり直っており、イルカのショーを見たり魚が群れで泳ぐショーを見たりととても楽しい時間を過ごした。 「ほら。プレゼント」 「え?なにこれ?」 水族館を満喫した俺達は出口付近にある売店をのんびり見ていたのだが、政行さんを一瞬見失ってしまう。 しかし、すぐ戻ってきた政行さんの腕の中には何やら大きなビニール袋がありそれを俺に渡してきた。 俺が袋の中を覗きこむと茶色のふわふわした物が見える。 袋を少し広げると大きなラッコのぬいぐるみが入っていてぬいぐるみと目が合った。 思わず一回勢いよく袋の口を閉じ、もう一度ゆっくりと口を開く。 「かわっ…かわいっ!!」 「一番でかいやつだぞ」 売店を入ってすぐの陳列棚の一番上の方に置いてあるのが見えるのを政行さんが指差した。 大きなイルカや海の生物達のぬいぐるみは目を引いていて、売店に入ってすぐに目には入ったが値段を見て凄いなぁとぼんやりと思う程度だったがいざ自分の手元に来るとあまりの可愛さにビニール袋ごとぬいぐを抱き締める。 「もう欲しい物はないか?何でも買ってやるぞ?」 俺に問いかける政行さんの顔を見て首を横に振った。 本当は何も買うつもりもなく売店を通らないと施設から出られないので冷やかし位にしか思っていたのにこんな嬉しいサプライズに俺はにっこりと微笑む。 もう一度袋を覗き込むと、他にも小さな袋が入っていて大きな袋越しに触るとジャリジャリと金属の擦れる様な音がしている。 「欲しいものがないなら、車の中でゆっくり見ればいいだろ?」 まじまじと袋の中を見て止まっていた俺の手を引いて水族館を出る。 外は相変わらず強い日差しでアスファルトが熱されていて暑かった。 手を繋いだまま車の前までお互い無言で歩く。 政行さんの車の前で腕が離され政行さんは運転席に乗り込んでしまったので、俺も慌てて助手席に乗り込んだ。 「あ、ありがとう」 「ん?」 「プレゼントありがとうって言ったの!!」 車の中は野外に駐車していた事もあって、外よりもかなり暑かった。 政行さんは窓を開ける為にエンジンをかけたところだったので聞こえなかったのか聞き返してきたが、俺は恥ずかしくなって大きな声で言い直す。 俺の声にフッと口角があがった。 そんな姿が格好いいと思ってしまったが、すぐに首を振って何事もなかったかの様にぬいぐるみの入った袋を抱きしめる。 「優希!晩飯の時間だぞ!」 「んぅ~?」 肩を叩かれているような振動と声に意識が浮上してくる。 俺はいつの間にか寝てしまっていたようで、今はふかふかした物に寝転がっていた。 目を擦って起き上がると今度は手から何かがぽとりと落ちる。 寝ぼけ眼で落とした物の正体を確認すると政行さんに買ってもらったぬいぐるみの入った袋だった。 「朝まで無理したから疲れてたんだな…」 「んぅ」 ちゅっという音の後に額に柔らかな物が当たった。 俺はまだ眠くてうとうとしていると、身体にふわりと浮遊感を感じてまた目を開けるも視界がぼやけている。 座らされたのか背中に固いものが当たった。 何やら話し声や笑う声が聞こえるが、俺は目が開けられない。 政行さんの言う通り朝まで無理をしたせいで眠くて仕方がないのだ。 「ほら…優希いい加減起きろ!」 「ひっ!」 次に意識が浮上したのは尻に痛みを感じたからだ。 パンッと乾いた音の後に痛みを感じて目が覚めた。 政行さんの顔が近くにあり、意味が分からないまま居るとキスをされ、口からぐちゅぐちゅという音の後に尻を揉まれているのを感じる。 「んぁっ」 「晩飯の時間に起きなかったから、弁当に詰めてもらったぞ」 「えぁ?ありがと?」 「キスだけで期待してんのか?」 「な、なに?」 寝起きのぼぉっとした頭では何を言われているのか分からない。 しかし、向かい合って肌を合わせているのが気持ちよくて政行さんの首筋に頭を擦り付ける。 頭上から猫みたいだなという声が聞こえるが、またキスをされてうっとりとまた目を閉じた。 プルルルル 電話の着信音がして俺はハッと目が覚めた。 「はい。あぁ…楽しくやってるよ。少し前に夕飯を食べたところだよ」 電話に出た政行さんの声でやっと状況が飲み込めてきた。 自分の身体を見下ろすと、俺はまた縄で全身縛られて居る。 尻には政行さんの固いものが当たっていて、身体はそれに期待していた。 「優希と今日は水族館に行ったんだ」 「…っ!」 多分電話の相手は母さんだろう事が話の内容で分かる。 しかし、政行さんは俺が覚醒したのが分かるとゆっくりと俺の中にペニスを押し入れてきた。 多少の痛みの後に腹に圧迫感が襲う。 なんとか声は我慢できたが政行さんはそんな俺を見てニヤニヤと笑っている。 俺が声を出すまいと頑張ってあるのに、政行さんは容赦なく腰をゆるゆると動かしはじめた。 「っ!…ふっぅ」 「そうだ。優希に変わろうか?」 「…!」 電話の内容なんて聞いていないのに電話をこちら側に向けた政行さんに俺は驚いて顔をあげる。 やはりニヤニヤと笑う政行さんの目が合い、手に政行さんの携帯電話を握らされてしまった。 俺はおそるおそる携帯電話を耳元に当てて震える声ではいと言うのを政行は楽しそうに見ている。

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