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1一7
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中間試験は結構自信があった。
ほとんど中学のおさらいのようなものだったし、由宇は元々勉強自体嫌いではないから、家でも暇潰しにやるので自然と点は取れてくる。
ただ問題は数学だ。
こればかりは苦手で緊張してしまうせいで、いつも解くのが遅くなって見直しまでいけない。
苦手意識が先行して公式を忘れたり間違えたりするので、本当に何とかしなければならなかった。
毎度毎度、バタバタと焦りまくって終わる、という感じだ。
医者になるなら数学が苦手だなんて言っていられないから、両親にも家庭教師にもこの事は話していない。
今以上に見放されるのが怖いからだ。
進学校のため、試験期間中やこの答案用紙が返ってくる時間だけは教室内がピリつく。
由宇の結果はまぁまぁいい感じだった。
現代、古典は満点だったし、英語もニアミス意外は取れていた。
残るは橘の数学だ。
「やばー…緊張してお腹痛くなってきた…」
「大丈夫か? そんな苦手だっけ?」
後ろの席の怜に、どうにかこの緊張を解してくれと瞳で訴えるも、あんまり効果はない。
ちょっと前にこんな話をした時、怜も数学が苦手だと言ってたのに、あの時は由宇に合わせただけで実は得意らしい。
だが逆に現代と古典がヤバイと言っていた。
誰にでも苦手科目はあるよな、という会話をしたのみだったが、お互いに教え合えばいいんじゃないかとそこで閃いた。
「なぁなぁ、次の期末は一緒に勉強やらない?」
「いいな、それ。 俺ん家でやる? 学校から近いし」
「えっ、いいの!? 行きたい! 今言ったからなっ? やっぱナシって言うなよ?」
「そんな興奮しなくても。 いずれは家に呼ぼうと思ってたよ、ナシって言わない」
やった!と、由宇は無邪気に喜んだ。
数学を怜から教えてもらえて、さらに謎の多い怜の自宅に行けるなんて、友達ランクが三つくらい跳ね上がるような気がした。
この学校は中間試験と期末試験の間に体育祭があるので、あまり勉強する時間が取れないと案じていたから尚更嬉しかった。
「おら、席につけよー。 答案返すぞ」
喜ぶ由宇は、その声にハッとして慌てて前を向いた。
今日も不機嫌そうな強面を晒している橘が、本鈴と共にやって来て早速答案を返し始めた。
体の大きな柔道部の柏木が答案を凝視しながらゲッソリして着席し、さらに由宇は緊張を募らせる。
「白井ー」
「……はい」
嫌だ、行きたくない。
答案も戻されたくないし、橘の近くにも寄りたくない。
もはや特技になりつつある、縮こまった体勢で橘の前にやってくると答案を渡され、周りに聞こえないような小さな声で、
「凡ミス多過ぎ。 もったいねーよ」
といつもの無表情で言われた。
そんなもの由宇が一番よく分かっている。
「くっ………すみません……」
「謝んなくてもいいけど。 時間は限られてんだから、もっと効率良くやれ」
「…………はい」
「次、園田ー」
怜と入れ替わりに由宇は着席すると、答案をくまなくチェックする。
点数自体悪くはなかったが、本当に凡ミスが多かった。
試験中の由宇がどれだけ焦っていたかが分かるほど、最後の方はミミズが這ったような字で0と6の区別も付かない。
「焦らないようにやるにはどうしたらいいんですかー…効率良くってどうやるんですかー…」
ちんまりと着席し、答案をひらりと机に放った由宇は独り言を呟いた。
この時ばかりは、橘に臆する事なく話し掛けられる女子達を羨ましく思った。
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