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2一5
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本鈴が鳴っても由宇はその場所から動けなかった。
一応階段の影に隠れて泣いていたので誰にも見付かっていないが、ふと背後から足跡が聞こえて慌てて振り返り、音の正体は誰だろうとコソッと覗く。
「わぁぁぁぁっ………んぐっ!!!」
するとそこにニュッと悪魔顔が現れて、由宇はあまりに驚いて絶叫した。
ホラー映画並みに驚愕する由宇の口を咄嗟に橘が塞いでしまい、盛大に最後まで叫べなかったが、まだ心臓がバクバクだ。
「うるせーって。 おいコラ、マジで今回はサボってんじゃん」
「な、ななななんでここにっ!?」
「お前が戻ってねーって聞いたから。 ほら、お前がいつも一緒にいるひょろ長い奴に」
「怜だろ! ひょろ長いとか言うな!」
本当にこの人は由宇をイライラさせるのがうまい。
大事な友達である怜の悪口まで言う。
「俺の事嫌いだからって、んな目くじら立てんなよ。 おもしれーからもっとイジっちまう」
「はぁ!? どんだけ性格悪いんだよ!」
「こんだけ」
「…〜〜っとにもう! 減らず口!」
飄々とした橘を前にすると、やはりメソメソしている暇がない。
何もかも嫌で逃げ出したかったけれど、橘と話していると見事に良いことも悪いことも全部吹っ飛んでいく。
すべてを忘れさせるほど、橘が由宇を怒らせるせいだ。
「んで? 泣いてたのか? なんで?」
よいしょ、と由宇の隣に腰掛けた橘は、ポケットからガムを取り出して口に放り込んだ。
橘が咀嚼する度にミントの香りが立ち込めだして、マイペースにも程があるだろ…と由宇は苦笑する。
「………なんでもない」
「なんでもなくて泣くんだ? ぷんぷん丸は泣き虫なのか? あ、ガム食う?」
「………先生、忙しいな」
「あ? 何が」
「…いや、……別に」
差し出してきた粒ガムを受け取らないでいると、いらねーの?とそれを引っ込めようとしたので、由宇は不貞腐れながら橘の手の平からガムを取ろうとした。
「………ッッ?」
指先は確かにガムを摘んでいた。
だが橘がいきなり由宇の手の平を掴んだせいで、ぽとりと橘の足元にガムは落ちていった。
そのままグッと引き寄せられ、何が起こったのか訳が分からないほどの早さでその大きな胸に抱かれる。
「ちょっ、なっ、…っっ?」
「泣いたって事は悲しいんだろ? 慰めようと思って」
「い、いいですよ、別に! 慰めてもらわなくても! ……離せ、離せって………! っクソーっ! 先生力強過ぎ!」
こんな慰めはいらない、と由宇はジタバタともがくも、しっかり動いているのは首から上だけで、いつの間にか由宇は橘が胡座をかいた上に座らされていた。
「暴れんなよ。 足痛ぇ」
「じゃあ離せよ!」
「嫌がってんのを黙らせるのがイイんじゃん」
「こわ…………鬼畜………」
「あぁ? 何か言った?」
眉を顰めた恐ろしい顔を間近で拝まされ、由宇はグッと口を噤む。
まるで親が小さな子どもを甘やかすような格好に、何なんだこれはとひたすら恥ずかしい。
「せ、先生。 …気持ちは分かった、ありがたく受け取るから、これはやめて。 すんごい恥ずかしい…」
「は? 恥ずかしい? 顔見せろ」
「なっ……」
橘は見た目通りとても力が強く、由宇の力じゃ到底その腕からは逃れられない。
しかも間近の整い過ぎた悪魔顔も心臓に悪いしで、とにかく俯く事しか出来なかった。
それなのに橘は由宇の顎を捕らえて瞳を合わせてくると、数秒真顔でジッと見詰めてくる。
「………まぁまぁだな。 それは恥ずかしいレベル2くらいの顔だ」
「な、何レベルっ?」
「そんなの恥ずかしがってる顔じゃねーよ。 ぷんぷん丸と変わんねーじゃん。 面白くねー」
「………面白くねーって………」
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