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2一8
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橘は本当に、由宇は保健室に居たと証言してくれていた。
わざわざ保健医にも話を通し、英語担当の教師にも根回ししてくれていて、由宇は無事に怒られなくて済んでいる。
動く前からすでに「めんどくせー」と言っていたから、きっとそう思いながらも由宇のためにしてくれた事は感謝しなければならない。
何事も無く次の授業に入れそうでホッとしたのも束の間、教室へと戻った由宇を怜は今にもキレそうなほど怒った顔で出迎えてくれた。
「どこ行ってたんだよ! 心配するじゃん!」
怜の物凄い剣幕に、何事だとクラスメイト達が遠巻きに見てきて居心地が悪く、とりあえず怜の腕を取って人通りの少ない渡り廊下へと連れて来た。
心配を掛けたのは悪かったが、そんなにブチ切れなくてもと思ってしまう。
「ごめんって。 ちょっと、色々あって…」
「色々って!? 何で俺に隠すの? そんなに俺の事 信用できない?」
「そうじゃない! 信用できるとかできないとか、そういう話じゃなくて…」
「じゃあ話せよ! なんで橘は知ってて俺は知らないの!?」
不公平だろ!と息巻く怜は、怒っているのか悲しんでいるのか分からないほど取り乱していて、それこそさっきまでドン底の気分だった由宇ですらその剣幕にたじろいだ。
イジメの事は、何となく恥ずかしくて打ち明けきらない。
この怜なら、話したところで恥ずかしさなんか感じなくてもいいような反応を返してくれるだろうけれど、それは由宇にとっては汚点とも言うべき大事件なのだ。
そう簡単には話せない。
「由宇!!」
「………そんな怒んないでよ。 …怜が俺に心開いてくれるんなら、話す」
「……え?」
由宇はずっと、怜の内側にあるものが気になって仕方なかった。
入学式から今日まで毎日、寝る間際までメッセージのやり取りをして仲を深めてきた。
由宇にばかり懐いて他とは一線を引く怜は、外見通り優しくて落ち着いていて。
まだ高校に上がったばかりとは思えないほど余裕のある佇まいに、きっと、そうさせてしまう何かが怜にはあると思っていた。
いつも冷静な怜がこれだけ由宇を心配して取り乱してくれているのだから、そろそろ話してくれてもいいだろう。
そう交換条件を出すと、頭に血が上っていた怜はようやく落ち着きを取り戻した。
「………俺の事知りたいの?」
「うん。 親とうまくいってないんでしょ? ……俺もだから。 絶対に気持ち分かってあげられると思う」
「あんまり話したくないんだけど」
「それは俺もだよ。 俺も話したくないから話さないし、怜も話さなくていいよ」
「…………………分かった、話すよ。 明日から期末の勉強するって言ってただろ? 俺ん家来た時に、話す。 だから由宇も話して」
まだ話す時期じゃないと頑な様子だった怜も、それだけ由宇がひた隠すイジメの件を知りたいあまりにしばらく悩んで頷いてくれた。
どんなことを言われても、由宇は怜の力になってあげたい、そう思っていた。
入学式初日に話し掛けてくれ、不安を一蹴してくれた怜の存在は由宇の中でとても大きなものとなっている。
それと同じく、怜も由宇の話を受け止めてくれると信じているからこそ、怜になら恥ずかしくても打ち明けようという気になった。
関連する両親との関係も話さなくてはいけないけれど、こうなったらすべて曝け出してしまおう。
ついさっき橘がそばに居てくれた安心感を思うと、誰かが気持ちを分かってくれるというのは物凄く心強いものなのだと知った。
怜のそばに寄り添ってあげられるのなら、由宇もその安心感を与えてあげたい。
そして怜にも、由宇に寄り添っていてほしい。
もう、一人で悩んでシクシクするのは嫌だった。
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