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2一10

2一10 怜はさらに由宇と密着した。 男子高校生の友達同士が不自然なほどピタリと寄り添い合っているが、ここには二人しかいないので気にしない。 怜もきっと由宇と同じで、話したくない事を話すのだから他人の体温を感じていたいんだろう。 由宇はそんな風に思っていた。 「俺、橘キライ」 「え、…? なんで橘先生が出てくんの?」 怜の話をしてよ、とすぐに突っ込もうとしたが、怜は至極真面目だった。 「……橘の婚約者が俺の親父と不倫してる。 それで母親は頭がおかしくなって、今精神科病院に入院してる」 「……え………?」 (待って待って待って、……どういう事?) ミルクティーのペットボトルを握ったまま怜が固まっている。 その隣で由宇も、今の怜の言葉を一生懸命頭の中で整理しようと一点を見詰めて硬直した。 「…………………………」 「…………あんまり話したくないって言ったじゃん。 由宇がそんな顔するって分かってた」 「いや、あの、あの、……ど、どういう事? 橘先生、婚約者いるの?」 「そりゃ居るだろ。 旧家の橘家の人間だよ。 早くから結婚相手は決められるんじゃないの?」 「旧家の橘家…? あ、いや、橘先生の話はどうでもよくて、その……お父さんが浮気してる、って事?」 情報量が多すぎて、さすがの由宇も一つ一つ紐解いていかなければこんがらがりそうだった。 今一番大事なのは、怜のお父さんとお母さんの事で、橘はどうでもいい。 橘には婚約者がいる、そしてその婚約者が怜のお父さんと……。 「そう。 調べたから間違いない。 ……アイツ全部知ってて何も言わないんだよ。 婚約者なのに」 「橘先生?」 「……アイツ…絶対知ってるのに…………」 「そ、それは確かなのか? …先生、もしかしたら知らないんじゃ……」 「なに、由宇はアイツの肩持つの」 飲み干してしまったミルクティーの空ペットボトルで手遊びしていた怜が、キッと由宇を睨んだ。 怒りを越えて恨んでしまっていそうなほど、怜の視線は鋭い。 家庭崩壊に至った原因が橘にも関係あるとすると、その気持ちは致し方ないと理解はできる。 だが怜の睨みは橘に匹敵するほど恐ろしくて、思わず上半身が逃げた。 「そうじゃないけど……! ……怜、お母さんはいつ帰ってくるの…?」 「分からない。 多分年末か、遅ければ来年なんじゃない? おかしくなった母さん見たくないから、俺お見舞い行ってないんだよ…」 「そんな………」 父親は浮気で若い女にうつつを抜かし、母親はそのショックで精神を病んだ。 そんな状況下に怜がいたなんて、とてもじゃないがあっさりと分かった風な顔は出来なかった。 由宇の家庭の状況も良いとは言えないけれど、離婚寸前の一般家庭ならありがちな仲違いだ。 だが怜の所は違う。 家族みんなが、橘の婚約者に振り回されてメチャクチャにされている。 「だからアイツ、キライ。 由宇を助けてくれても、ありがとって思えない。 由宇、アイツなんかと仲良くするな……。 なんか胸が痛くなる」 「怜……………」 「アイツが新任でここに来るって知ったから、俺はここに入学したんだよ」 恐る恐る横顔を窺うと、怖い顔をしたままの怜はそう呟いた。

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