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3一2
3一2
いかにも悪そうな仲間数人の先頭で歩く橘は、周囲を圧倒しその辺のチンピラ達をもペコペコさせている。
しばらくその様子を見ていた由宇達は、見付かると面倒だと互いに気持ちが通じ合い、同時に回れ右した。
「おいコラ、お前らうちの生徒だろー」
背中にそう声を張られ、二人で「逃げるのが遅かったな」と視線で会話した。
生徒相手にその口の利き方はどうかと思う、由宇は瞬時に言い返したい衝動をグッと抑えて、怜がいる前なので無視を決め込む。
怜の家族を苦しめている橘(の、婚約者)なんか大嫌いだから、シカトをしても許されるはずだ。
「あ、ぷんぷん丸じゃん。 そっちは園田怜か。 お前らこんな時間に何してんの」
「………言う必要ないですよね。 俺ん家に帰るとこですから。 失礼します」
よく見ると橘はいつものクールビズ仕様のまま、左腕には学校の校章が描かれた腕章を付けていた。
橘が言っていた例の「舎弟」を引き連れて、単に街を闊歩していただけではないような気配に、由宇は少しばかり柔軟に目の前の輩達を見た。
すでに怜は踵を返して歩いて行ってしまったので、由宇も後を追おうとしたのだが。
「家近いのか?」
気が付くと由宇の目の前まで迫っていた橘に見下されていて、逃げ腰のままウンウンと頷いておく。
断固として喋りはしない。
「ふーん。 今日はひょろ長のとこに泊まんの?」
由宇はもう一度頷いて、怜を追い掛けようと振り向くと真後ろには怜が戻ってきていた。
いつの間に、と思いつつも橘と取り巻きが怖くて後退ってしまう。
怜は橘へ強い視線を返しながら、ビビり上がる由宇の腕を取った。
「家は学校のすぐそばです。 由宇、行こ」
「う、うん」
休日にまで憎い橘の姿を見てしまったからなのか、怜はいつになく怖い顔で由宇の腕を引いている。
橘と取り巻きからはぐんぐん遠ざかって、物言いたげな無表情の橘はそれ以上追っては来なかった。
怜が腕を握る力が強過ぎて少しだけ痛かったが、そんな事を言い出せる空気でもなくて、由宇は連れられるままに怜の自宅へと着いた。
現在ほぼ一人で生活している怜にとっては、いきなり家族の輪を乱し破壊させた女性を恨むのも仕方がない事だし、それをほったらかしている橘にも怒りが向かうのは当然だ。
キッチンに入るなり無言で料理を始めた怜に、ソファにちょこんと座った由宇は掛ける言葉が見つからなかった。
正直、橘に婚約者がいるというのも驚きだったが、その婚約者が浮気をしているのを見て見ぬフリしているだなんて、由宇にはまだ信じられずにいる。
あんなに正義感たっぷりに由宇の悩める事件を解決してくれた人が、みすみす浮気を、しかも家庭を壊す恐れのある不倫というものを果たして許すだろうか。
(なんか腑に落ちないんだよなー…)
見詰める先には、何かを忘れたいと望むようにもくもくと料理を仕上げている怜の姿があって、この現実を目の当たりにすると由宇の中の疑問は深まるばかりであった。
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