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5一6
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大胆過ぎる盗み聞きをしていた由宇には何も言わないまま、橘がジロッと見下ろしてきた。
電話の内容のせいか、まだ機嫌が悪そうだ。
「電話終わったんだから離れろよ」
「……あ、ごめん。 先生、今のって…」
「ふーすけ先生、だろ」
「はっ???」
橘の太ももに乗り上げる勢いでくっついていたせいで、重たかったのかもしれない。
そう思って慌てて離れると、三白眼の魔王のままでまたもジロリと視線をよこしてくる。
しかも謎の呼び方を強要されそうになっているので、由宇は立ち上がりながら首を傾げた。
「何だよ、ふーすけ先生って。 …呼ばないし」
「昨日言ってただろ。 お前から言い出したのに何で呼ばねーんだよ」
「俺から?? 知らないよ」
「………チッ、寝ぼけてやがったのか」
バスローブの前を締めていないせいで、舌打ちした橘の大事な部分がまともに見えて咄嗟に目を逸らす。
通常時でも立派なそれをブラブラさせておいて平気そうな橘は、ノーパン主義だと言っていたのは本当だったらしい。
由宇はお腹こそ壊していないがたった一夜ではノーパン主義に付き合えるほどには至らず、洗濯してくれると言っていた着替えを視線で探した。
「先生、あの……そろそろ着替えたいんだけど」
「あ? 帰るっての?」
「うん。 だって先生、昨日の事話すつもりないんだろ? 今日は怜の家に泊まる事になってるし、一回家に帰らなきゃ」
「…ふーすけ先生って言え」
「は? だから呼ばないって……」
「言え」
「何なんだよ…。 …………ふーすけ先生、着替えお願い」
「嫌」
「なんでだよ!」
着替えはともかくパンツくらい履かせてほしい。
何やらこちらが恥ずかしくなってしまう愛称を言わされたのだから、それくらいは許されるはずだ。
ここに泊まる事になって少なからず動揺していたので、夕べはさほど気にならなかったのだが気になってくるとどうも落ち着かなかった。
時計を見るとすでに九時を回るところで、話をしないならここに居る意味がないと思う。
チラと橘の姿を窺うとまた眠そうにあくびをしていて、未だ目はいつもの半分しか開いていない。
ここがどこなのか教えてくれさえすれば自力で帰るし、そうすれば橘もゆっくり二度寝出来るだろう。
嫌だと言われる理由が分からない由宇は、一度立ち上がったものの目的が無くなってソファに沈んだ。
(そもそも俺は何でここにいるんだろ…)
怜の家に行くと言うと途端にイライラされて、贅沢な夜ご飯を頂き、広いベッドで眠らせてくれた。
不埒な事はされたが、あれも由宇を疲れさせて眠らせるための行為だったと結論付けたし、AVを見ながら友人同士でコキ合いする事もあると聞いた事があったから特に驚きはない。
無知で幼稚な由宇にしてみれば、相当に衝撃的な出来事ではあったけれど。
「………もう分かってると思うけど、歌音っつーのが俺の婚約者な」
「えっ、あ、…うん。 話してくれるんだ?」
「それが望みなんだろ」
(そりゃそうだけど……急だなぁ…)
昨日イかされた事を思い出して頬を染めていた由宇は、いきなりの橘の言葉にハッとする。
そうだった、せっかく橘と二人きりなら、すべて話してもらわねば。
「今の樹さんとの会話聞いてたんなら大体の見当は付くだろ」
「な、何がっ!? 先生、はじめから話してくれないと分かんないけど!?」
盗み聞きしたからと言ってあれだけでは何もかも分かるはずがない。
きっと説明するのが面倒くさいのだろうと思ったが、負けじと橘を睨んだ。
「ふーすけ先生、怜のお母さんと知り合いだったの?」
「あー? そっから話さなきゃなんねーの? ………園田さんは高校ん時のセンセーだったんだよ。 俺が少しだけヤンチャしてた時、根気よく卒業まで気に掛けてくれたセンセー」
「そうだったんだ……」
(少しだけヤンチャしてたってのはすごーくオブラートに包んでるな)
橘は電子タバコのスイッチを押した。
どうやらこの電子タバコは連続では吸えない充電タイプのものらしい。
煙とにおいは多少はあるが、火を付けて吸うタバコを吸われるより遥かに隣に居やすい。
「マジで世話になったから、今度は俺が恩返しする番っつーか。 まぁそんな感じ」
「………その…昨日、歌音さんと怜のお父さんを引き裂いたじゃん? その後お母さんの病院に行ったのは何で?」
「園田さんの様子を歌音にも知っといてほしかったからだ。 アイツの存在一つで人が一人ぶっ壊れて、かつ何も問題の無かった一家庭を崩壊させた罪の重さを知らしめたかった。 園田さんには悪いとは思ったけど、キレさせるよーな質問をわざとした」
「そっか……だから急にあんな事言ってたんだ…」
まだ心が不安定な母親へ酷な質問をするものだと思っていたが、そういう意図があったのか。
わざわざ歌音をあの場所へ連れて行った事もきちんと理由があった。
「あぁ。 恋愛は自由だけどな、それは独身同士の場合だけだ。 不倫は許される事じゃねー」
「うん、……うん、そう思うよ…! だって怜も、怜のお母さんも、毎日毎日なんでこうなったんだろうって考えてるよ、きっと……」
「昨日歌音が暴れたっつーのも、俺は想定内だ。 アイツは虚言癖あるから恐らく仮病だろーな。 可愛い可愛いで育てられた典型的な箱入り娘だから、そうやって一暴れすれば親が好きにさせてくれると思ったんじゃね?」
「……虚言癖…」
あんなにも素直そうな綺麗な女性が…と由宇は呆然と橘を見詰めた。
橘も電子タバコを吸いながら由宇を見詰め返してくる。
相変わらず眉間の距離は近いが、だいぶ瞳が開いてきた。
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