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放課後デート-3
突然の言葉。僕は酷く動揺して、直ぐに舞から手を引っ込める。
「い、いいよ……」
「なんで?」
「……な、何で……って、お……おかしいじゃん……」
男の僕が、女性用の指輪なんて……
指先が震える。震えるから余計に外れない……
「そうかな。……あたしは、さくらくんなら全然おかしくないって思うけど」
口角を上げて、舞が僕に笑ってみせる。
その口調は冗談ぽいのに、瞳の奥は……全然冗談めいてない。
「………」
「……ねぇ。私にも、さくらくんが選んだ指輪、嵌めてよ」
指輪を外し、舞は裸になった薬指をじっと見つめる。
「いいじゃん、嵌める位。……別に結婚式してる訳じゃないんだし」
不意に見せた、寂しそうな瞳。一緒に帰ろうと誘った時の瞳と、同じ色……
「………」
リングケースに視線を移す。その中で見つけた、細くて繊細なデザインの指輪。
舞の左手を取る。そして薬指に、その指輪をそっと通す。
……まるで挙式の、指輪の交換みたいに……
「おっ、可愛いじゃん!」
嵌められた指輪を見た舞は、口角を上げ笑顔を僕に見せる。
そこにはもう、先程の瞳は見られない。あるのは、キラキラとした瞳だけ。
「買っちゃおうかなっ」
その手を上げたり下げたり角度をつけたりしながら。指輪を眺めている。
気をつけなければ折れてしまいそうな程、細いリング。舞の細い指に、良く似合っている。
「……さくらくんが選んで、嵌めてくれたものだから……」
驚いて舞を見る。
ナツオの前では見せていない、少し照れた横顔。
……どうして……
視線に気付いた舞が、僕を見る。そして僕の左手を取り、掌を下にしたまま舞の左手がそこに寄せられる。小指の付け根辺りを重ねる様に触れられれば、お互い嵌められた指輪が並ぶ。
「この指輪……何だか私達みたいだね。
似せ物なのに、本物に近づきたくて……こんなにキラキラ光ってさ……」
いつになく、真面目なトーン。
舞の手が、僕の手を包む。その手を辿り目線を上げれば、寂しげな色を揺らす瞳とぶつかる。
「……これ、さくらくんに買ってあげたい」
真っ直ぐ向けられる視線。
「ダメ、かな?」
「………」
……その瞳、ズルいよ……舞……
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