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好き-1

level.2 「そうだ!……明日三人で、映画観に行かない?」 それは、舞からの唐突なお誘いだった。 昨日の帰り道…… 雑貨店を出て駅に向かう途中、舞の指が、僕の左手に絡まる。 『……さくらくんってさ、いつも目で追ってるよね……ナツオの事』 舞の口から溢れる、核心をついた言葉…… ドキッとして、舞を見上げる。と、舞は見透かした様な瞳で僕を見た。 『もしかして、好き……とか?』 『……ち、違うよ』 『あはは。書いてあるよ、ちゃんと顔に』 『……え』 慌てて舞から顔を逸らす。俯いて逃れたものの、舞はそれを許さない。 頭を傾け、口角を上げ、僕の顔を覗き込む。 『私がとりもってあげようか?』 『……え、ち……違うって……』 『ウソ。三人でいる時、ナツオの事ばかり気にしてるの……気付いてるんだから』 『………』 舞は、多分楽しんでる。 僕が……変だから。 からかってるんだ…… 机を引き、二人の机と合わせる。 「……あ、もしかして二人とも、予定あった?」 何で映画なのか解らない。けど、僕が来るまでの間に、観たい映画の話で盛り上がっていたんだろう。 伏せ目がちに席に座れば、既にお弁当を広げていたナツオがダルそうに答える。 「……しゃーねーな。舞に付き合ってやるか」 「あ、なんかやな言い方」 「うっせ」 ふて腐れた言い方。だけど、僕は気付いてる。ナツオの少し照れた横顔。 ……舞は気付いていないみたいだ…… 少し膨れた顔をしてみせた舞が、此方に視線を寄越す。 「さくらくんは?」 解ってるよね……舞はそんな表情をする。 「……え」 舞の言葉に、ナツオが僕をチラリと見た。 その涼やかな瞳は、何処か尖っていて…… 「ぼ、僕は……」 目を伏せる。二人の視線が、僕を追い立てるから…… 「行ける、よね?」 舞が僕の顔を覗き込む。視界に舞の期待に満ちた瞳が飛び込み、驚いて顔を上げた。 「……ね?」 「え、あ……うん……」 つい押されて答えてしまう。ナツオを見れば、その瞳が冷たく僕を突き刺した。 「……明日、ぜってー来んなよ」 放課後。帰り支度をする僕にナツオが近付く。そして僕の耳元に唇を寄せ、ぽそりと呟いた。 その瞬間、ナツオの匂いがふわりと僕を包む。 言葉を理解するより先に、血管がドクドクと脈打つ。まるで、全身が心臓になったかのように…… 「解るだろ、さくら」 ナツオの匂いが遠退く。 人差し指を立て僕を指差した後、ナツオは僕の鎖骨下辺りをトン、と強く突いた。 同時にその言葉も、僕の心を鋭く貫く。 「………」 ……つまり、それは……気を利かせろって事で…… 「……うん」 目を伏せ、小さく答える。 なに、やってんだろう…… ……バカだ、僕……

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