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学校

「おーい、ナオちゃん」 「…なに」 ホームルームが始まるまでの時間、机につっぷして寝ていた直人は、安眠を妨害する不遜な輩を見るためにノロノロと顔を上げる。 「お前折角朝早く来るよーになったのに寝てたら意味ねーじゃん」 「睡眠不足なんだよ。何の用?」 不機嫌さを隠さないのは相手が気の置けない仲である須貝宏夢だからだ。学区外のこの学校では只一人の幼なじみ。中学高校と部活まで同じで、俗に言う腐れ縁というやつだ。 「2限目の数学の予習見せてくんね?」 「…ヒロ、今日問題当たってなかったっけ」 黒板に問題を解くのは、面倒臭がりな数学教師らしく出席番号順。この間カ行の自分が最後に当たったからサ行の須貝は今日の筈だ。 「だからこうやって聞きに来てんじゃん」 「当たってる時くらい予習しときなよ」 「俺は文系科目が出来りゃそれで良いのー。それにこっちには真面目で優秀な楠木クンが居るしぃ」 「嫌味?」 宏夢は不真面目だが要領は良い。高二の時点で志望校も確り決めているし、その志望校の受験科目が国語と英語だけなのを確認した上でのこのサボり。その二科目はきっちり学年上位に入るし、総合順位も実は俺より上なのだから本当にちゃっかりしている。 「ルーズリーフの中から適当に探して」 「あざーっす。って、お前どんだけ先まで予習してるんだよ」 まだ1学期が始まって1ヶ月、既に分厚いノートになっているルーズリーフのファイルを見て宏夢がゲンナリした様子で声を上げる。 「ゴールデンウイークに結構進められたんだ」 「げぇー、特別課題がエグい量あったじゃん」 「…そっちは休み時間とかにやってて、連休始まる時には殆ど終わってたから」 うわー、ガリ勉がここにいるー!と騒ぐ宏夢に辟易する。大体ここは進学校なんだから全員ガリ勉みたいなもんじゃないか。 「早く写さないとホームルーム始まるよ」 「え?うわやべっ、んじゃ2限始まる迄には返すから」 「いや今写せよ」 「化学のレポート先にやるから無理」 「レポートって昨日提出じゃなかった?」 そんな風に暫く軽口を叩きあっていたが、廊下から担任が見えると宏夢は慌てて席へ戻っていった。 …宏夢は知らない。 どうして俺が予習を先々に進めるのか。 課題を休み時間にやるのか。 帰宅後に斎藤さんとのメールのやり取りを、思う存分楽しむ為だ。

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