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(6)尖ったやつに輪のやつを通すやつ

8:2で左右田が悪い、あとは右近の言い方にも問題があったとやりすぎだと言っておいた。その後2人を自室に無理やり戻した。本当に仲が悪いんだ、3秒も顔合わせてたら口論が始まる。 それなのになぜ隣に住む…!! 今この下宿には俺を抜いて6人住んでるという話だったが、半数も癖の強い奴らだなんて。微体力もっさり男、割と暴力的眼鏡、口先だけ不良男…。 下宿運営が急に不安になってきた。 しかし、やると決めたならばやるしかない。下を向いていたら気持ちがどんどん沈んでいく、上を向こう! 「あれ、なんだこれ?」 気分を上げるため上を向けば、犬猿組の部屋の間に年季の入ったこの下宿に不釣り合いなものがあった。 目線よりやや上、その位置にアイパッドが壁に固定されていた。 好奇心に動かされ試しに腕を上げてボタンを押した。少し高いので操作しづらい。画面を開くと初期壁紙の上に数個見慣れないアプリが入っている簡素な状態だった。 「それは予約票用です」 「おぅ、お前居たのか…」 背後からもっさり、もといゆったりとした口調で話しかけられ茂竿の存在に気づいた。てっきりさっきのゴタゴタで部屋に戻ったと思っていたが。 「予約票」 「風呂や洗濯機などが共用じゃないですか、スムーズに使えるようにみんなでこれ使ってます」 「へえ」 試しに風呂と書かれたアプリを開いた。なるほど、見やすい票だ。 時間と名前がロールに登録されているからいちいち入力しなくていいのか。 「携帯にも同じアプリ入れておけば出先でも予約できるんです」 「へー、ほんと便利だなぁ」 爺さんこんなハイテクなもん導入してたのか。 いや、違うな。 うちの爺さんは機械オンチだ。バイクや車は好きだが電化製品や携帯類はからっきしだったなそういえば。 子供の頃携帯ゲームの調子が悪いと相談したら「叩けば治る」って手刀で画面折られるわ新しいの買ってきたと思ったら100均にあるなんちゃってゲーム機だったことがあったくらいだ。水が詰まっててちっさい輪っかぴこぴこ動かすやつ。 こんなの絶対爺さんが使えるはずがない。鍋敷きにするはず。 「茂竿君、これ君が置いたの?」 「え?ええ、違いますよお、僕じゃないです」 「じゃあ誰が…」 「201の混入先輩です」 「こみい」 「すごい機械に強くてこのアプリも先輩が作ったやつで…多分もうすぐ帰って…あ、ほら」 茂竿が玄関を指差すので視線を向けるとドアノブが動いているところだった。 どんなやつなんだろうか。 普通の、いやせめて、せめてでいいからさっきの2人よりは大人しいやつだといいのに…! ドアがゆっくり開いた。 扉の向こうから見えたシルエットは 「いやでっか」 扉の上から頭がはみ出すほどの身長だった。

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