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(10)背筋を伸ばし前を向け
ピピ、と日付が変わったことを控えめな電子音で伝えてきた時計を見た。
かれこれ何時間たったのか。
書類片付けてさっさと寝るつもりが、掃除が楽しくなってきてほとんど荷ほどきも終えてしまった。
明日やるつもりだったけどまあいいや。明日の自由な時間が増えたと思おう。寝るか…。
ベッドの方に行くまで肩をグリグリまわしストレッチ。以外に肩がこる。
寝巻きに着替えて寝よう。
いや、やっぱり風呂に入ってから寝よう。少し汗もかいたしひさびさに湯船に浸かりたい。
俺が4年借りていた昔のアパートはシャワーしか無かった。最初は値段に流されて「無くても問題ないや」と思っていたが、季節に関係なくあったかいお湯に全身をつけたいという欲求が定期的に湧き上がる。
矢追荘は各部屋に風呂トイレは付いていない。共用だ。
掃除の途中気になったので風呂場を見に行った。
湯船はちゃんと足を伸ばせる程度には広いかった。嬉しい。
ウキウキしながらバスタオルと洗剤系をもって部屋を出る。
しかし風呂場は良かったには良かったがところどころの溝に黒カビが生えていたり水垢が残っていたりと汚かったなあ。あしたホームセンターに行って掃除道具買いに行かないとな。
別に俺は潔癖症ではない。一般常識程度の掃除好きなだけだ。汚い部屋がどんどん綺麗になって行く様を見るのは非常に気持ちいいし、それを見て喜んでくれるのを見るのはもっと気持ちいい。よく締め切り前の友達の汚部屋を消毒しに行った。
同等の理由で料理をするのも好きだ。
矢追荘大家を引き受けたのは以上2点の俺の趣味からくる動機も大きい。
けっして、決して!「就活もうしなくていいじゃんラッキー!!楽できる」ばかりが動機じゃないぞ。ほんとほんと。
少し深夜テンションが入ってきたのもあって、1人問答しながら脱衣所に続く扉を開けて中に入る。
話が変わるが、何か考えながら行動しない方がいい。
とくにうつむき気味で「夜中だし誰もいないだろう」という先入観は持つべきではない。
痴態ほどばっちり人はみてるものだしな。で、なんで話を変えたかというと
「………あー…」
「………すんません………」
知らん男の全裸をばっちり目撃してしまったからである。
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