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(11)寡黙な人なんです
別に異性ではなし、同性の裸体がどうということはないが。ガン見する理由もないのでそっと視線をそらした。
バッチリ目撃はしてしまった。
どことはいわないが。
全裸男がそっとタオルを腰にまいたのを確認し視線を戻す。
少しウェーブがかった薄茶の長髪で、人の良さそうな印象を与える整った顔立ち、ざっくり言えば色っぽいジャニーズ顔。
「あー…と、はは、俺たちこの時間に予約してたんだけど、予約票から漏れてた、かな?」
「あっ」
しまった予約表アプリ。
住人同士の鉢合わせを避けてスムーズにバスタイムを進めるためにあるシステム。
…を、完全に忘れていた。
「すんません見てなくて、その、予約表。あ、あっと、で、出ますねすんませんほんとすんません」
「あ、ああ、うん、たしかにちょっと高い位置にあるからね、あのアイパッド。すぐ伝えておくよもう少し下げて置いてって」
「すいません、あっ、ごゆっくりどうぞ」
「え?え、あ、どうも」
お互いしどろもどろにあっあっと会話しつつ、俺はなんとかその場から脱出して扉を閉めた。
あーびっくりした。心臓に悪い。
昼間にあった5人ならまだ顔合わせたぶんダメージが少なかっただろうけど今の人は完全に初対面。気まずかった。
今この下宿の住人は6人。
きっと今の人が最後の人だろう。なんとまぁ最悪な顔合わせだこと。
なんかもう良いや、寝よう。
寝て忘れよう。
その前に、予約表アプリが入ってるアイパッドもう少し下げておこう。目につきやすくて操作しやすいところに。
多分設置したのが開発者でもある高身長の混入だからだろう。俺にとってこの見づらい・触りづらい位置があいつのちょうどいい所なんだな。
少し羨ましいぞ…。
踏み台とドライバーを部屋から持ってきて固定している金具を外した。
適当な位置にずらしてもう一度固定。
うんうんこれこれ。操作しやすい。
さっきの長髪ジャニ顔は「下げるようにすぐ伝えておく」って言ってくれたが、住みやすいように環境を整えるのも大家の仕事だからな。よしいい仕事した、寝よう。
…うん?
踏み台をもとあった位置に戻すと少しの違和感が生まれた。
「すぐ伝えておく…すぐ…?」
今から風呂に入ろうとしてるのに?
うーん。
入る前にわざわざ伝えに行ってくれたのか?なんか申し訳ないことをしたな。
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