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〈1〉たらしさん

入居、(結果的に)顔合わせ、掃除、下宿内ルールの把握、住民の大体のプロフィール確認…。 矢追荘に入り、弱1週間たった。 住人たちとドタバタしたのは最初の2日ほどで、あとはすれ違ったりちょっと挨拶する程度にしか接触していない。 騒がしいやつらが多いから騒音被害やらお隣さんの苦情やら、そういうものがどんどん来るものだと思っていたが。不思議なことに一件も来ない。 しかしうるさくないわけではない。 夜中になると少々の話し声や二階からバタバタギシギシとなにやら軋む音が頻繁にする。どうやらこの下宿は「お互い騒がしいのは承知だから触れない」という暗黙のルールでもあるようだ。 俺もそこまで気にならないし、大抵はイヤホンをして動いている。問題ない。角は立てる必要がないならほっとくに限るとおもい注意はする必要がないだろう。 つまり、概ね快適な生活をおくっていた。 この下宿にきてちょうど1週間目がったったその日。 平日の昼頃、住人6人中5人が学生なので矢追荘に人気が無くなっていた。 こういう時こそ下宿内の雑務をこなす絶好のチャンスだ。 今日は天気もよかったのでためていた共用タオルなどの洗濯物を洗うことにする。ついでに布団カバーなども天日干ししよう。 2つある洗濯機に入れるものをいれ、動かしている間に庭にある物干し竿へ向かう。夜冷えるようになってきたので昨日羽毛布団を出したのだが、 ダニが怖いので干すタイミングを狙っていた。 しかしまああったかい分かさばる。 欲張って二枚持って出て来るんじゃなかった、前が見えない。 手探り、いや足探りでスリッパをみつけだしヨタヨタと庭へ向かった。 前は見えないが何回も歩いた道のりなので目的地まで行けた。 物干し竿は目の前だ。 目の前だが。 しまったー。 これ1枚は地面に置かないと干せないじゃないか。なぜ忘れてた。 泥とかつくじゃないか、やだなー。 だれか手伝ってくれないか、茂竿とか、いや全員大学いってた。 猫の手でもなんでもいいから貸して欲しい。だって戻るのめんどくちゃい。 「手、貸そうかあー?」 「ほんと是非お願いしたい、え?」 まのびした声の主は、二階の窓から顔を出していた。逆光で顔が見えづらい。 「すぐ行くよ」 人影が窓から引っ込むと ものの数分もしないうちにその人物は来てくれた。 「鱈師さん」 そうか、この人夜メインのフリータだったな。だから昼間にいるのか。 「はーい、大変そうだな、上のもらおうか、せーの」 ズルルと上の羽毛布団を持ってもらうと一気に視界が開ける。そして身が軽い。 「ありがとうございます」 「いいさ。先干すな」 軽々と布団を干してくれる姿を見ていた。鱈師さんとはあの全裸エンカウント以来会ってなかった。 ゆったりとしたニットとジーンズの部屋着姿で、髪はシュシュでまとめていた。 服きたら印象全然ちがうな。 いや全裸を基準にするな俺のバカ。

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