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『1』うるさそうだ

「大家さんちょっといいか」 「うおっ、どうしたよ」 後ろからデカイ声で話しかけられたらびっくりする。 振り返る前からわかってたがデカイ声の主は102の左右田だ。 語気がが強いと言うより単純に声量がデカイ。 「明日から3日ほど外泊まるから飯いらねーって言いたくてな」 「おうわかった。どっか旅行か?」 「そそ。ダチと一緒にライブいったりすんの、土産かってくるわ」 「いい、いい。その金物販にまわせ」 「サンキュー」 最近妙にそわそわしてると思ったらライブか。いいな最近行ってないからな。 左右田との顔合わせがインパクトあるもので、ヤンキーみたいなやつかと思った。だから最初はなるべく関わらないようにしていたが、この下宿はどうも住人どうしの(もちろん大家の俺もだが)交流が多い。 長くなったがつまり話してみると意外と通じるし、むしろ面白くていいやつだった。 だから共有スペースや洗濯機空き待ちの時間などで他の住人と談笑しているのが俺の部屋にいてもわかった。 声がでけーし大学も歌う方の選考な分 通る。 そして101の右近と口論してる時はもっと通る。いや響く。 最初は頻繁に首を突っ込んでなだめたりしていたが、手が出ない限り放っておいた。むしろ「おっ、元気だな」ぐらいに思えて来た。慣れって怖い。 本当に仲が悪いんだ左右田と右近は。 なんで隣に住んでるのか不思議なくらいに。 1度「空き部屋あるし金もいいから部屋移動しないか?」と言ったが2人とも「ここが気に入ってる」と答えた。 わからん。本人がいいというならそういうことにしておこう。 幸いなことか解らないが夜は静かだ。 しかし間が悪いというか言い出すのが遅いやつだ。 泊まりはいいが食事の有無は早めに伝えて欲しい。わりと1人分の穴はおおきいからな。 矢追荘2大遅刻魔の1人でありルーズな部分が多いので今度そこだけはやんわりと注意しておこう。 さて、明日の献立は変えられないが余った分は明後日に回そう。なににしようか。 台所に向かい冷蔵庫をあける。 中の食材を確認しつつ、携帯でレシピサイトを呼び出して献立をたてなおしていた。 「………」 「こんな堂々とした夜逃げがあるかよちげーよライブだよ」 「………」 「そそそ」 ほら早速聞こえて来た。 相手はわからないが誰かと喋ってる。 台所から出て声が聞こえて来た玄関をのぞいた。 あれ、珍しい。 相手は混入か。 「お前も好きだろセタノベ。今度一緒に行くか?」 「知ってるでしょ…人混み嫌いなの」 「知ってる」 「そうちゃん…手が早いんだから……テンション上がって乱闘騒ぎとか起こさないでね…」 「やかましい」 仲良いんだなあいつら。 年は同じだったっけ。しかしあの声が小さいしなかなか話てくれない混入が。面白い組み合わせだな。 そうして左右田はでっかいキャリーを引きずって旅だった。 ま、これでしばらくは右近も心安らかだろう。

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