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【5】

本音を言おう。 俺は大家という立場にやりがいは持っていたがそれ以上に不安があった。 経営学なんて学んだことはないし、 家賃として振り込まれる金の多さとそこから水道代をまとめて払ったりと公的な手続きをしに行かないといけないと考えるだけで頭が痛かった。 そういう小難しい手続きは苦手だ。 部屋でどこまで信じていいかわからないネットの情報を頼りに1人で作業するのもこたえた。 その不安を人が良く面白い住人達との関わり合いでごまかしていたのかと 今になって思い始めた。 混入と別れてからグルグルと重い思考が俺の中で這いずり回っている。 頼んだ飲み物は随分前に冷えきった。 「あれ、大矢さん?」 日が傾いて来た頃に、聞き慣れた声が後ろから来た。 「……茂竿」 「大学で会うなんて思ってなかったなぁ!さっき凄い顔…」 「今まで頭に鳥飼ってるって思っててごめん………」 「え飼ってないっすよ?!」 「茂竿って名前直球すぎんだろ 見た目まんまかって犬井に言って ごめん……!」 「犬井って誰すか!いやうち先祖代々茂竿って苗字で…いやそんな事思ってたんすか?!」 「ごめんな…」 「実は謝る気ないですよね?!」 うん。 不思議だ。こいつのもっさりした顔見たら急に心が落ち着いて来た。 いや。いやいやいや、待て俺、そういうところがいけないんだ。 俺はこいつが借りている部屋の大家なだけ。それだけの関係だと自覚しろ、 俺! 「大矢さんが急にそんなこと言い出したらなんかコワいというか… キモいっすね!」 「なんだともっさり男」 「あーっ!すんませ、すんません!! 頭わしゃわしゃしないでー!!」 やっぱこいつの毛根は死滅させる。 茂竿の頭を腕で押さえ、力任せに髪をかき回していると何故か茂竿は嬉しそうに笑っていた。 「何笑ってんだ」 「いや、いやあはは、だって大矢さんだってなんか凄い楽しそうだから つられて」 「んなわけ…」 「でもさっきこの世の終わりみたいな顔してたんですよ大矢さん、なんかあったんですか?」 「そんな顔してたか」 「外からみてわかるくらいには」 「…そうか」 大きく息をすって、全て吐き出した。 ひとりで考えるのはやめよう。 「茂竿」 「はい?」 「飯いくぞそんで俺の愚痴に付き合え 奢ってやるから」 「飯!やった、付き合います!」 「お、おう」 やっぱり俺、色々溜め込んで疲れてたんだな。 こんなもっさり男が可愛いって思って しまうくらいだ。 うまいもん食っていろいろ吐き出し ちまおう。

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