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(5)左往’右往
右近が大矢に飛び蹴りをかます数時間前
大学の一角にある食堂にて。
何百人も在籍する大学は昼時に大量の腹を空かせた、特に自炊能力と金が無い生徒をさばくため多数の食堂やコンビニを設置している。
その中の1つ、少し校舎群から離れた場所にある食堂。
生徒からは「タムロ食堂」と呼ばれいる
場所がある。
タムロ食堂は完全個室制、座り心地の良い椅子、窓からは良い景色、フリードリンクバー(ただし料理は頼まなければならない)などなどがある。長っちりするのにこれほど最適な環境は無い。
元々は学生のレポートや作品制作に集中できる場所を提供したいがために開かれた食堂だったが、いこごちの良さと完全防音な個室というのが人気になり
2週間前に予約しておかないと使用できないという状況に。その枠も募集開始30分で全て埋まるほど。
ただし、この食堂の主任に気に入られたりかなり通い詰めると予約なしで部屋を確保してもらえる。
今年度そのお眼鏡にかなっているのは
まだ1人だけである。
その人物は今日もタムロ食堂にやってきた。ただしいつもより遅めの時間で。
「オゥ左右田、今日は来るの遅かったな
いやどうしたその顔」
その人物というのが左右田である。
タムロ食堂の主任が玄関先を掃除しているとき左右田は根元まで綺麗に染めた赤髪を適当に上で束ね、いつも通りのダルダルな服装にいつも通りでは無い顔でやって来た。
鼻に根元が赤黒くなっているティッシュをつめ、左ほほに青アザをつけている。
眉上にも大きめの絆創膏が貼ってあった。
「どっかで転んだのか」
赤染めの髪にだらしない格好で目つきの悪い男が顔に酷い傷をおっていたなら
「喧嘩でもしてきたのか?」と思うところだが、この主任は左右田が見た目に反して喧嘩というより腕力がからっきし無いこと、人間関係の立ち回りが上手い事を知っていたので誰かとの小競り合いがあるとは微塵にも思っていない。
「…そんなとこっス」
「そうか」
嘘をつくときポケットに手を強く突っ込む癖も知っていたが、あえて追求はしなかった。知った仲だがプライベートな部分に踏み込むほどの関係では無い。
「いつものとこ、お前のダチ供が先行ってるぞ」
「っス」
左右田は人気店のタムロ食堂で常に席を確保して貰っている。
その席で大学の友人3人とダラダラ過ごすのが日課だ。
左右田が廊下を進み角にあるその席への扉を開ける。
言っていたとおりいつもの顔ぶれが携帯をいじっていたり流行りのゲームをやっていたり机に突っ伏して寝ていたりしていた。しかし左右田が中に入るとその行動を中断させ全員が左右田を見た。
最初に口を開いたのは携帯をいじっていたプリン頭の男。
「ソーダッちその顔どした?!ブス!」
指をさしての爆笑である。
「うっせ指差すなカス」
その指を叩いての罵倒。ただし彼らの中では罵倒のバの字にも入らない。言った方も受けた方も特に気にしていない。
「いつものけェ」
変になまった喋り方のピアス男。
「そーよ、今日は顔面」
「痛そうヤン押していいけェ?」
「は?殺すぞ」
左右田、プリン、なまりがギャァギャァやっていてもずっと寝ている青染頭は微動だにせず寝ている。
プリンにいたってはもう飽きて携帯をいじっている始末。
これが左右田の現在生活で大部分を占める時間の過ごし方であり、
一番過ごしていて楽なグループだ。
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