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第3話
日が落ちかけると外は薄暗く不気味になる。
小さな窓からはあの野原が見えるらしいが
ニロの目にはぼんやりと灰色に滲んで映り、
知らない場所のようだ。
ニロ達にはそれぞれ自室を与えられているが
長方形に切り取られたコンクリートの空間に
簡易なベッドと小さなテーブル、壁掛けの時計があるだけの質素な部屋だった。
部屋の外に出ればジザベルやミナや他の動種達の自室が並ぶ廊下があり、
その先には食事を取ったりする時に使う少し大きな部屋、食堂がある。
建物の中にいる時に他の動種達と会う場所もここだ。
そこへ行こうか、と窓から離れて薄っぺらいドアへと向かった。
廊下はひんやりと冷たく、静かだった。
部屋にこもりきりの者や既にもうここにはいない者もいるだろう。
立ち話をしている者も最近は見なくなった。
廊下を少し歩いて、立ち止まる。
食堂には彼はいないだろう。そんな予感がして踵を返した。
今来た道を引き返し自分の部屋の前を通り過ぎ、
廊下の一番端までゆっくりゆっくりと歩いていく。
今日は壁伝いでなくても歩けるから、調子がいいなと思った。
やがて端に辿り着くと向かい合ったドアの片方をノックする。
返事はもちろんなかった。
「ジザベル?開けるよ?」
そう声をかけて冷たい金属のドアノブを回した。
薄いドアは自分の部屋より重い気がした。
緊張しているだけかもしれないが。
部屋は暗く、正面の窓から灰色の光が見える。
黒髪の少年は、ベッドにもたれるようにして床に座り顔だけを小さな窓に向けていた。
手は力なく床に投げ出され、立てた片膝の足首に尻尾が絡んでいた。
ニロは部屋に入りそっとドアを閉め、こちらを見もしない彼の横にそっと座った。
床は冷たかった。
「....何か見える?」
そう聞きながらニロは目の前の壁を見つめた。
窓のない壁は白く、広いような狭いような不安な気持ちになる。
ニロの部屋にはその壁沿いに小さなテーブルがあるが、この部屋にはなかった。
「.....別に、何も」
「そっかぁ」
ニロがくすくす笑うとジザベルはゆっくりと顔をこちらに向けた。
黒い目は揺れていて酷く顔色が悪い。
「ご飯食べに行こうよ」
食事の時間にきちんと食堂に顔を出すのはニロとミナくらいのものだった。
ここの所ジザベルを食堂で見かけたことはない。
だからわざわざ誘いにきたわけではないのだが
彼の顔色の悪さに少し不安になったのだ。
「要らない」
短く返され、わかっていたことだがニロは苦笑した。
「ちゃんと食べないと元気でないぞー」
「ニロよりは元気だよ」
そう言いながら寝返りを打つようにベッドに頭を押し付けながら体をこちらに向け
ジザベルはふふ、と目を細めて笑った。
「ちゃんと残さず食べないとダメだよ」
「なっ...!残してないよ..!」
「グリーンピースも?」
「ちゃんと食べてるよ....時々...」
ニロの言葉に、ふーん、とジザベルはまた目を細める。
そんな風にミナにも話してやればいいのにと思ったりもするが
意図的にそんな話はしないようにしている自分がいる。
独り占めしたいという気持ちなのかもしれないとニロは薄々勘付いてはいるのだ。
「....ジザベルが、一緒に食べてくれたら残さない..かも」
じっと彼の黒い瞳を見つめながらニロは口ごもるように呟いた。
ジザベルは呆れたように口を歪めて笑みを作り、涙を拭うようにニロの頬を指先で撫でた。
「また今度」
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