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第6話

明る過ぎる蛍光灯の明かりが目に刺さる。 上を向くのをやめ、ニロは自分の足元で難しい顔をしている担当研究員の長い髪を見つめていた。 担当が変わって3人目。初めての女性の研究員だった。 「今日は一日大人しくしていてね」 彼女は立ち上がり、やれやれといった風に息を吐いた。 今朝片足が動かなくなったのだ。 何かの薬か実験かの後遺症。 このような事は何度もあり日常茶飯事だ。 「目はどう?」 「いつも通り..かな、前よりはだいぶよくはなりました。」 女はニロの前髪を避けて左目を見つめてくる。 これだけ近付いてやっと顔がハッキリ見える。 目の調子が悪くなり始めた時は、暗いか明るいかくらいしかわからなかった時もある。 治療と称して様々な薬を盛られるが、 見えるようになる時なんか来ないことはわかっていた。 「そう。」 女は頷くと体を離し、傍らのデスクの引き出しを開け始めた。 ここは彼女の研究室だ。 部屋はきちんと整理されていて清潔だ。 デスクも広々としている。 「手術の話が出てるんだけど、どうかな」 引き出しから数枚の紙を取り出し差し出された。 ニロはそれをおずおずと受け取り紙に目を落としたが 難しい事が書かれていてよくわからなかった。 「目の...ですか?」 「そう。いつも薬で治療してるでしょ、 その応用なんだけどね。 理論的には見えるようになるはずなんだ。 確率としてはかなり高い。 やってみる価値はあると思う」 早口にまくし立てられ、ニロは女の顔と紙を見比べた。 どうせ俺には拒否権はないのだろう。 治すための手術ではなく、治るかどうかの実験だ。 それでも一応お伺いを立ててくれるだけまだマシなのかもしれない。 「でももしかしたら全然見えなくなっちゃうかも。 ないとは思うけどね」 さらりと言われ、ニロは力なく笑った。 「日程が決まったらまた教えるから」 紙を返しながら、はい、とニロは頷いた。 最初からこちらが決められることではないのだ。 ただそれに従うだけ、覚悟をするだけ。 被検体に出来るのはそれだけだ。

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