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第9話

手術を控えたニロは暫く動種達の生活スペースから離れるようだった。 今までそうやって戻ってこなかった者達はいっぱいる。 それでもニロは戻ってくる、とジザベルは自分にもミナにも言い聞かせた。 そうでもしないと、この心はあっという間に乾ききってしまうから。 「死ぬのは怖い?」 相変わらず担当研究員の男はこの質問を繰り返してくる。 首を絞められる事はもう無くなったが、 その言葉を聞くたびにジザベルは平常では居られなかった。 自分では淡々と答えているつもりだが、動悸がして変な汗が背中を伝い体が震える。 彼の意図も彼が欲しい答えもわからないが ジザベルは素直に、怖いです。と答え続ける他なかった。 眠れない夜が幾つか過ぎて、その日は珍しく夢も見ずに泥のように眠った。 目を覚ますと外は灰色で一瞬夕方なのかと思ったほどだ。 雨が降っているらしく、今日は外に出られそうになかった。 「ニロ...何してるかな...」 自分で言って驚いて思わず口を手で覆った。 部屋に1人でいるのだから独り言を言ってもよかったのだが、 なんとなく口に出したくなかった。のに。 途端に寂しくなって立っていられなくなる。 冷たい床に崩れ落ちて涙が出そうなのを必死に我慢した。 「No.23。開けるぞ」 不意にドアの外から声が聞こえジザベルは慌てて振り返った。 そこには白衣を着た見知らぬ女が立っていた。 細いメガネをかけ、短く切られた髪が厳しそうな印象を受ける。 「本日はいつものに加え別の実験に協力してもらう。来い」 女はハキハキと喋り顎をしゃくってジザベルの返事を待たずに歩き出した。 後ろに控えていた男達が数名部屋に入ってくる。 皆白衣を着ていたが、自分の担当の研究員はいなかった。 「おいで」 「....はい..」 床にへたり込んでいたジザベルの腕を1人の男が持ち上げた。 ジザベルは持ち上げられるままに立ち上がり、彼らの後を付いて部屋を出たのだった。

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