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第10話

連れてこられたのは自分がいつも訪れる担当研究員の研究室よりさらに廊下の奥の部屋だった。 ドアの大きさからして広い部屋なのが外からでも分かる。 研究員の手によってドアは開かれ、ジザベルは中に入るよう促された。 怖々足を踏み入れる。窓のない部屋は薄暗く、薬品の匂いがツンと香った。 ジザベルは部屋の中央へと歩いていく。 白くて大きなベッドが見えた。 「.....ッ..!?」 ジザベルはそのベッドの全体像をとらえた瞬間足を止めた。 目隠しをされた白髪の少女が手足を鎖に繋がれ人形のように横たわっていた。 長くて白い耳は見間違えようもなくミナだった。 「なん....ですか...これ...」 嫌な予感がして声が震えた。 ジザベルが振り返ると、先程の厳しい女研究員が腕を組んで立っていた。 「単刀直入に言うとNo.37を妊娠状態にしたい。協力してくれるな?」 女の言葉に倒れそうになった。 動悸が激しく、体が震える。首を絞められているようだ。 「ちょ...ちょっと待ってくださ..」 「動種は動種とでしか子は成せん。 知っているはずだが...まあいい。 あまり手間取らせるなよ」 女は用件だけを淡々と言ってのけ、後は頼むぞ、と隣にいた男の研究員に告げさっさと行ってしまった。 最初から拒否権などない。話を聞く事すらしてくれないのだ。 「....嘘でしょ...嫌だよそんなの.......」 ジザベルは横目で少女を見た。 彼女と野原で話した記憶が蘇って、不意に吐きそうになる。 「時間がないんださあ早く」 「大丈夫薬で眠っているから気付かないよ」 数人の研究員達が口々に言い、ジザベルの背を押してくる。 頭がおかしくなりそうだった。 心臓が煩いくらい鼓動を早め、くらくらと目眩がする。 「やだ.....いやだ.....!」 ジザベルは首を振った。 その瞬間、どん、と背中を押された。 体のバランスが崩れベッドに倒れ込む。 「痛....ッ、う...あ....っ!」 目の前にはミナの顔があった。 白い髪がサラサラとシーツに流れていた。 ジザベルは慌てて跳びのこうと上半身を起こしたがすぐに上から押さえられ身動きが取れなくなる。 「手伝ってやるからさっさとしろよ」 「寧ろ役得じゃねえの?23番ちゃん」 研究員達の優しかった口調がだんだん壊れてくる。 くすくす、嘲笑するような笑い声が室内に響いた。 視界がだんだん真っ白になっていき色んな声や音が遠ざかっていくような感覚になった。 何も考えられなかった。

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