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第13話
たとえどんな事があったって、
朝になれば世界は明るいのだろう。
何かが欠けても壊れても、きっと平等だ。
やっと見慣れた景色に戻ってきたという感覚さえあった。
薄暗い廊下、殺風景な部屋、窓から見えるらしいあの野原。
手術を終え、ニロは被験体たちが暮らす空間に戻ってきていた。
手術の前後は研究室の中の部屋で、怪しげな機器や医療道具に囲まれて過ごしていたが
何もないこちらの方がやはり自分にはしっくりくると思う。
幸い、盲目になることは防がれたらしい。
通常通り見えていた右目も左目と同じレベルにはなってしまったが
ニロにはどうでもよかった。
生きて戻ってこれただけで、儲けものなのだ。
自室を出ると、ちょうど廊下を歩いていたらしいミナが振り返った。
驚いたような顔でこちらを見た後、すぐに駆け寄ってくる。
「ニロ様!戻られたのですね!」
ミナは嬉しそうに微笑みニロの手を両手で取った。
「うん。お陰様で。元気だった?」
「はい!とっても」
どれくらいの時間が経ったのか正確にはわからないが
なんだか随分と会っていない気がした。
ミナは相変わらず絵本の主人公のように屈託のない笑みを浮かべてニロの手を振り回していたが
やがて俯き、動きを止めた。
「....どうかした?」
急に元気のなくなったミナを覗き込むようにニロは首を傾げた。
「はい...あの、私....」
ミナは戸惑うように目を泳がせてニロの手をぎゅっと握りしめる。
「.....ジザベル様が全然お部屋から出てこられなくて
それに、嫌われてしまっているようなのです」
目に涙を溜め、ミナはニロを見上げた。
「私何かしてしまったんでしょうか?」
彼女の言葉にニロは小さく笑って開いていた片方の手でミナの頭を撫でた。
「大丈夫だよ。
ジザベルは訳もなく誰かを嫌いになったりしないよ。
きっとすごく疲れているか、それとも....」
自分を責めているか。
ニロは途中で言葉を区切り不安そうにこちらを見ているミナにまた微笑みかけた。
「きっとすぐ仲直りできるよ。」
ミナは暫く不安げだったがやがて、はいっ、と嬉しそうに頷いた。
ニロは笑みこそ絶やさなかったが心臓が針で刺されるように痛み出して立っていられなくなりそうだった。
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