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第14話

ジザベルの部屋には誰もいなかった。 研究室に行っているのだろう。 ニロは諦めて自室へ帰り、ベッドの上でぼんやりしていた。 ミナはジザベルと話せた事、 花の冠の作り方を教わった事などをそれは楽しそうに話して聞かせてくれた。 複雑な気持ちになりはしたが、それでも この平穏な空気の中にまた戻って来ることが出来たのだと思うと 自然と笑顔になってしまい、ミナとは楽しくお喋りが出来ていたことだろう。 「ジザベル....」 無意識に名前を呼んでいた。 また心臓が痛くなる。 ジザベルが部屋から出てこないのは毎度の事だし、愛想がないから嫌われていると誤解させるのも上手いだろう。けど。 嫌な予感がしていた。 ただ離れていたから寂しくなっているだけかもしれないが、今すぐ抱きしめたかった。 ニロは自分の膝を抱え、祈るように目を閉じた。 ジザベル、ジザベル、ジザベル.....! 君さえ笑ってくれるなら。 君さえ見えるなら、俺はそれだけでいい。 沢山の時が経った事だろう。 意識の向こう側でもう1人の自分が呟いているようだった。 だが、ジザベルには最早正常な時間感覚で過ごすことが出来なくなっていた。 寝ているのか起きているのかも分からない。 野原でぼーっとしていた事もずっとずっと何百年も昔の事だったような気がする。 ジザベルはベッドにもたれるように床に座ったまま窓を見上げていた。 左腕が重くて動かない。そこから一気に沈んでいきそうで、縋るように光を追う。 差し込む日差しは、月明かりなのか、太陽なのか。 考えようとして、思想が白い靄の中に溶けて何も考えられなくなる。 瞬きの隙間に、ここに来たばかりの風景が見えた。 ここに来たばかりの頃は、今よりも沢山同種達がいた。 野原では誰かが駆け回り、食堂では誰かが語らっていた。 ジザベルはここに来る前「ベル」という名前で呼ばれていた。 そのたいした意味もないであろう名前は、別に好きでも嫌いでもなかったが 被検体No.23。通称、ジーザ、とベルをくっつけて ジザベルと呼び始めたのは誰だったか。 クリーム色の髪の毛が、走る度にふわふわと跳ねて、柔らかい微笑み。 そうだ、「綺麗だね」。「綺麗な黒」。 「きっと忘れないだろうね」 そうだ、あの時僕は。 光を、見た。

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