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第17話

どうして消えて無くなったりできないんだろう。 身体が冷たくて寒くて凍える夜は身体がだんだん透明になって 空気の中に混ざっていきそうなのに。 「は....?」 一瞬。 風が止んで、時が止まったような感覚になった。 目の前に立つミナの瞳は暗く沈み、 かつての煌めきは微塵も残っていなかった。 体調を崩し研究室へと運ばれて1日後、ミナは帰ってきた。 だがその様子はまるで別人だった。 ミナはまるで疲れた大人のような顔で笑ってこう言った。 『妊娠していると言われました』と。 動種の成長は人間よりも早い。見た目は子どもでも身体の機能自体は大人と変わらないし 妊娠期間も人間と比べるとずっと短い。 ゆえに、彼女はここに来てから妊娠したことになる。 「ニロ様...知ってますか、 ここの動種で"身体が自由に動ける"のは 今は私たち3人だけなんですって」 ミナは野原に立ち尽くし遠くを見るように顔を上げた。 遠く遠く、どこを見ているとしれない目。 ニロは頭が痛くなって吐きそうな気分に陥っていた。 ミナは苦笑して、草の上に腰を下ろした。 話と比例しない、晴天だった。 「誰も悪くないのは分かっているんです」 さらさらと風に揺れている白い花を摘み取って、ミナは口付けるように顔へと近付けた。 「だって私、全然世界のこと知らないんですもの。 何も知らないんですもの....」 笑いながら呟き、ザァっと吹く風に髪の毛を揺らしミナの指先から離れた花が空を舞った。 「...人間が憎い.....」 低い声でミナは呟いた。 ここの人はみんな優しいと笑っていた少女は、もう居ない。 「ニロ様....ジザベル様のところに行ってあげてください...私が行っても追い込んでしまうだけだから」 青い顔をしていたニロを見上げミナは微笑んだ。 そして彼女が最初に放った言葉の意味がようやく理解でき、反射的に走り出す。 "僕のせいだ"と、いまにも消えてしまいそうだったではないか。 「俺は、なんで、....っ!」 ああ。ジザベル。まだ君を救えるだろうか。

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