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第19話
ひどく天気の良い朝らしい。
瞼に刺さる光に起こされ、ニロは上半身を起こした。
辺りを見回し、小さく笑った。
「ああ....そっか....」
ぽつりと零す。
昨日はジザベルの部屋から自分の部屋には帰らなかった。傍らに彼は寝ているだろうか。
手を動かすと、彼の三角形の耳に触れた。
指先で弄ぶと、耳がピクピクと動く。
「.............」
静かに息を殺すと彼の寝息が聞こえた。
規則正しい呼吸の音。時計の針の音も聞こえる。
静かで、平穏で、幸せだった。
「俺は、幸せだよ..ジザベル」
最初にジザベルがここにきた時のことを思い出す。
誰も信用出来ないという瞳で、それでもジッと前を見据えていた。
その黒い瞳に、さらさらと流れる髪の毛に、
リボンのような尻尾に。釘付になった。
『綺麗だね』と思わず口が滑って慌てていたら
ジザベルは不思議そうに笑った。
「忘れないよ...忘れられるわけがない」
いつまでも瞼の裏に張り付いているのは、
その姿だから。
やっぱりその顔だったから。
それが今やっと確信に変わった。
「...泣いてるの..?」
いつの間にか起きていたらしいジザベルの手が頬に触れた。
暖かかった。
「おはよう、良い天気だね」
「え..今日雨....」
ジザベルはそう言いかけて、ニロの頬を撫でた。
「...そう、だね。いい天気だ」
やがて暗闇の中、暖かな腕に抱きしめられた。
綺麗な景色も世界の果ても、見えなくたって構わない。
君だけいればそれだけでいい。
幸せな俺たちに雨の音は聞こえない。
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