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第20話

外は雨だった。 研究室の窓からは、灰色の空から滴る雫がよく見える。 白衣のポケットに手を突っ込み、女はデスクへと戻った。 「No.26ですが、そろそろ"Dランク判定"かと。 今朝方視力の完全なる消失が確認できました」 部屋の反対側からパソコンのキーを叩く音ともに助手が抑揚のない声が話しかけてくる。 「あーあやっぱダメだったかぁうまくいったと思ったんだけどなぁ」 実験、いや"手術"は失敗だったらしい。 回復は一時的なものか? 女は考えながらも自分もデスクの上のパソコンに向かった。 「で、どうするの? 最近じゃ動種はなかなか手に入らないんだから、あれでも貴重なのよ」 「はぁ、ですが体の硬質化も酷いですし あれ以上は耐えられないかと」 「もー使えないなあ。 まだやりたいこといっぱいあったのに」 女は溜息を零し、椅子の背もたれにやる気なくもたれる。 「それでですね、第8研究室から要請が来てるんですが」 「第8?なんて?」 「"どうせ廃棄するなら動くうちに寄越せ"と...」 「はぁ?」 全く関わりのない研究室からの横柄な要望に面白いわけがなかった。 女はパソコンを素早く操作し第8研究室を検索する。 「何よここも動種使ってんじゃない。No.23... へえ成る程ねぇ。軍からの依頼でやばい研究してる奴がいるって聞いてたけどこれかぁ」 画面に表示された断片的なワードを見ながら女はにやついた。 死への恐怖、希死念慮、最強の兵、生死の境目...ーーー。 「なんです?」 「うーんつまり、死への恐怖を捨て去れば他人の死もなんとも思わなくなる。 自らの死を恐れずかつ他人を殺しまくれる人間兵器が作れるかどうかの実験」 女はざっくりと説明した。 人間たちは相変わらず戦争をやめない。 その為に莫大な金を投資するしより効率よく相手を打ち負かす為にくだらない研究もいくらでもする。 逆らわない方がいいね、と女は呟いた。 「わかったわかった。惜しいけど送っちゃって。」 「わかりました」 「あ〜あ、また新しいの見つけてこないとなぁ」 欠伸を零しながら、第8研究室のページを閉じて女は椅子の上で伸びをした。 死ぬのが怖い故に人は危険を冒すのを躊躇する。 誰かを殺すのも躊躇する。 その箍が外れたら、...ーーーーー。 女は少し考えて、ため息を零したくなった。 生かす研究の傍で殺す研究が行われている。 殺す研究で生きているものもいれば、生かす研究で死ぬものもいる。 この世の価値はあやふやで、それでも誰も 人間には逆らえないのだ。

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