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第22話
「...くない、死ぬのは怖くない、怖くない、怖くない怖くない怖くない怖くない」
ぶつぶつと小声で唱える。
頭の中が空っぽになっていくようだった。
ニロの暗い瞳がこちらを見据える。
切っ先がもう彼に届きそうな距離まで近付いて、ジザベルは足を止めた。
「ジザベル」
ニロがしっかりした声でそう呼んだ。
ジザベルの瞳から涙が溢れた。
「愛してる、ニロ」
「...分かってるよ」
ニロは力なく笑った。
「.......なんで」
「俺もジザベルを、愛してるから」
「ッわかってるよ!」
ジザベルは叫んだ。ナイフの切っ先がニロの首筋に触れた。
記憶が褪せる、曖昧になる。綺麗じゃなくなる。
「早くやれェよォォ!!!」
研究員の男が、奇声のような声を上げた。
その嵐のような声の中で、ニロの口が動いた。
「ジザベルは、綺麗だ」
未来のことなど、考えたことはなかった。
いつでも今が一番で、大事で。
死ぬ間際まで、2人でいられればそれでよかった。
「うあああああああああああ!!!!!」
ジザベルは叫び声をあげた。
美しくて優しい、ニロ。
僕なんかを綺麗だという。
真っ赤な血が飛び散ったのが見えた。
その向こう側、ニロの暗く沈んだ瞳が一瞬光った気がした。
見ないで、ニロ。
僕は今、そんなに綺麗じゃない。
....ああ、謝らなきゃいけないのは、僕の方だったね。
「ごめん....ね....」
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