23 / 26

第23話

真っ暗な闇の中で、赤いものが見えた。 「.......どう、して」 ハッキリと開かれた視界が、赤い血で染まった美しいものを捉えていた。 黒い髪の間から見える首筋から大量の血が床に滴り落ちていく。 ニロは倒れこんできたジザベルを抱えたまま、目の前の状況を受け入れられずに呆然としていた。 「アアアアアア!!!!?!?!? 何やってんだテメエエエエエエ!!!!!」 怒号が部屋に鳴り響いた。 ニロは震える体をどうしようもできずに居ながら、顔を上げる。 怒りに狂った研究員の男が、こちらをものすごい形相で睨んでいる。 「俺の理論は間違ってないんだアア!お前らが出来損ないだからだ!このポンコツ畜生共!!!」 男はのしのしと怒りを踏みしめるようにこちらに近付いてくる。 ニロはビクッと身体を震わせた。 ジザベルを守らなきゃ。 すでに物のようになってしまったジザベルの手からナイフを静かに抜き取る。 「何だよその目は...なんだよ!!!!見えてないくせに俺を見てんじゃねえ!!!」 ニロの中にこの人間を殺したいと思う気持ちはなかった。故に見えていても見えてはいなかった。 正直、どうでもいいのだ。 ジザベル以外のものなんて。 男がこちらに手を伸ばした瞬間、建物中に響きわたるような大音量の不穏な警戒音が流れ始めた。 「緊急警報です火災発生です緊急警報です火災発生です。速やかに避難してください。」 生気のない女の声が流れ始めた。 部屋の照明が赤く切り替わる。 「!?なんだぁ!?」 男が上を見上げた、瞬間。 ニロは音もなく立ち上がり、ナイフで男の腹を刺し、そのまま横に振り抜いた。 赤いライトが点滅を始め、部屋中が赤く染まった。 ナイフを捨てる。 悲鳴をあげて倒れこむ男を振り返りもせず、 うやうやしくジザベルを抱き上げて部屋を後にした。 「...怖かったね、ジザベル」 人々が狭い廊下を走って逃げていく姿が見える。 廊下の窓からは黒い煙が見えた。 ひどく焦げ臭かった。 「.....あ」 野原へ向かおうと階段を下り始めた時、下の階からこちらを見上げている少女がいた。 長い耳をピンと立てて、少女はこちらに気付くと小さく笑った。 「だって、だって殺すって言うんですもの」 ミナは自分のお腹を両手で押さえながら呟いた。 顔は笑っているが、泣いているようだった。 ニロは階段を下り、すれ違いざま彼女の手を見た。 真っ黒だった。 「.....おいで」 静かに呟き、中庭に続くドアを目指す。 人間達は逃げてしまったのだろうか。 中庭に続くドアには誰もいない。 ミナは黙ってついてきた。

ともだちにシェアしよう!