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【連休6日目・深夜(続)】

 ゆっくり湯に浸かって芯からぽかぽかと茹だった身体をホテル備え付けの浴衣で包み、ケイさんに手を引かれるように部屋に戻る。  部屋から持っていったタオル類はユニットバスに干してくれるというからお任せして、ベッドにダイブした。  ちょっと逆上せぎみだ。  男の裸の付き合いって、話題も赤裸々になるからヤバい。  ケイさんの恋愛遍歴をじっくり聞いてしまった。  俺は語るほどないからな。  大学の頃に1人、腐女子彼女がいたきりだ。  確かに童貞ではないけど、数えるくらいしかしてないのも自慢じゃない事実。  ケイさんは過去に8人ほど元カノがいるらしい。  多い方じゃないかと思うんだけど、つまりは長続きしないんだよ、とケイさんは自嘲する。  ケイさんって、釣った魚を甘やかすタイプなんだけど甘やかされて相手が調子に乗ってグイグイ押してくると引いちゃって素っ気なくなるっていう、面倒臭い性質があるらしい。  それで彼女に「前はあんなに優しかったのに」といって振られるのが定番だというから、元カノたちは見る目がない。  黙って甘やかされていれば幸せでいられるだろうに。  そんな自分の傾向をケイさんが暴露してくれたのは、8人分経験してようやく自覚したかららしいんだが。 「だからね、カズくんは自分も動かなきゃとかそういう慣れないことは考えないで、ただ俺に愛されててくれれば良いんだよ」  だそうだ。  そりゃまぁ、コミュ症自称するだけの自覚はある俺だから、こちらは助かるばっかりだけど。  って、付き合うこと前提で考えてるだろ、俺。  ぶるぶる頭を振って、乙女思考追い出しをはかる。  危ない危ない。俺はノーマルですよ。 「何可愛いことしてるの?」  ドサッと俺の背中に重いものが落ちてきて、耳元にはそんな声。  俺の足の付け根あたりに跨がって、肩の横に手をついて、どうやら覆い被さっているようだ。  あれ? 閉じ込められた? 「まったく、無防備なんだから。俺は君を今夜襲います宣言したからね。わかっていて無防備ってことは、OKと取るよ?」  ちょ、ちょっと。ケイさん、声がエロい。 「いや、だから。俺、ですよ?」 「何、その堂々回り。俺が目下口説き中なのは君でしょ」  耳元に囁かれる掠れ声。そのまま耳たぶを食まれて、ぶるりと身体が震えた。  うつ伏せている上に足の付け根をしっかり押さえられているから、身動きも取れないんですが。  耳たぶから首筋を伝って浴衣の襟もはだけて肩口へ、ケイさんの唇が這っていく。  気持ち悪いとかくすぐったいとかはなくて、ただただ恥ずかしい。  顔を布団に押し付けて身悶えていたら、ケイさんの唇が触れているところがピリッと痛んだ。  痛んだ!? 「え、ちょっ、そこっ」 「服で隠れないね」  うわぁ。やっぱり。  キスマーク付けられた。  ふふっとケイさんは意地悪く笑っているけど。  まぁ、今なら休みの間に消えるだろうけどさ。職場にキスマーク付けては出社出来ないんだから、控えてもらわないと。 「カズくんは肌が綺麗だから、キスマークも映えるね」 「……男にキスマークってどうなんですか」 「大丈夫だよ。情熱的な彼女さんがいるんだね、で評価終了」 「彼氏にキスマーク付けられる彼女って、ずいぶん力あるんじゃないですか?」 「カズくんの肌なら付けやすいよ。筋肉の固さもないし皮下脂肪も少なくて張りがあるでしょ。ちょっと力入れただけですぐ付いた」  女の子だって余裕余裕。全然嬉しくない。 「でも、明日はハウステンボスでデートなんですよね?」 「気にしない気にしない。旅の恥はかき捨てっていうじゃない。俺も可愛い恋人見せびらかせて大満足だし」  ニコニコと上機嫌で笑うケイさんに、俺はため息ひとつで諦める。  やっちゃったものは仕方がない。同行者が良いというならそれで良いだろう。俺自身は別に、今さら誰に何を言われても気にならないし。  少し強張っていた身体が脱力したことで俺が諦めたのが伝わったようで、ケイさんは少し身体を起こすとうつ伏せたままだった俺をひっくり返した。  器用だなぁ。太ってはいないけれど痩せているわけでもないから、俺の身体はそれなりに重さがあるはずなんだけど。  少し自由が利くようになったから身動いでみたら、ケイさんにガッチリ押さえられてしまった。  額を合わせて、至近距離から見つめあう。  ってか、近すぎて焦点が合わない。 「なぁ、カズくん」 「はい?」 「このまま、キスさせて」  え。この体勢で、許可取るの?  ここまで攻めてきてるくせに、どこまで紳士ぶるの、この人。 「ちゃんと、付き合おう?」  近すぎるせいか、熱っぽく見える視線で。囁いてくる声まで熱くて。  ……。  あぁ、もう。  どうとでもなれ!  頷くのもなんだか癪で、目線はそのまま見つめ返し、逞しい首筋に両腕を預けて。  嬉しそうにふわりと目元に皺を寄せて笑ったケイさんが、かっこ良く見えてしまった。  俺もとっくに重症だったのか。 「ありがとう」  礼を言われることじゃな……いや、言われることか。  そっと触れて、そっと離れる唇を、開けたままの目で見つめて。  男の唇も案外色っぽい。  もう一度降りてきた唇が俺の下唇を食んで、優しいキスはそこまで。  入り込んできた舌に口内を思う存分犯された。  正直、もの慣れない俺は息も絶え絶え。 「け、ケイさん。もちょっと、手加減……」 「手加減なんかしたらカズくんに失礼でしょ」 「ないですから」  本人の希望を却下するとか。  ケイさん、なんでそんなに強気なの。  ビビり自己申告とか、冗談でしょ。 「ふふ。可愛いね」 「可愛くはないです」  ちょっと、ムッ。平凡男捕まえておだてても、その気にはなりませんよ。 「ふふ。拗ねちゃって、可愛い」 「だから、可愛くな……」 「香月」  ひゃっ。  ここで耳元で囁くとか。  しかも、あだ名ですらなく。  ぞくっと、背筋に電流が走った。  なんですか、フェロモンってやつですか。 「ほら、ね。可愛い」  はだけた浴衣の合わせにキスを落として、余裕綽々に笑うケイさん。  俺に抵抗の余地なんて微塵も無さそうです。

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