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【連休8日目・深夜】
夕御飯だったはずがそのままグダグダと宴会に変異し、順番にお風呂をいただきながら飲み続け、単語はなるべく標準語を選びながら俺を話し相手にしてくれるお父さんと世間話に盛り上がり、いつのまにやら時刻は10時過ぎ。
朝から観光に動きっぱなしで疲れが出てきた俺は、申し訳ないことにうとうととし始めていた。
いつものごとく俺のことを良く見てくれているケイさんが支えて起こしてくれるのに身を任せて、立たされるがままに起き上がる。
「カズくん限界みたいやけん先に寝てしまうね」
「おう、お疲れさん。また一緒に飲もうなあ」
「ゆっくりおやすみ」
「はい、おやすみなさい」
本当にやさしいご両親だ。良い家族だなぁ。
さて、そんなわけで提供された客間に戻る。と、布団が2つ、ピッタリくっつけて並べられていた。
風呂に入っている間にヨリちゃんさんが敷いておいてくれたそうだ。
この近さ、何か意図があるように感じられてビビる。貴腐人こえぇ。
カメラと携帯電話の充電をセットして、のそのそと布団に上がる。
本当に限界で、すぐにでも寝入ってしまいそうなんだけど。
寝てしまう前に明日以降どうしたら良いか聞いておかなくてはいけない。
土地勘ない俺には右も左も分からないんだ。
「そういえばすっかり忘れてたけど、阿蘇山周りも地震で通行止めの道とかあったよな。早めに出ようか」
「……? 出ようか、って。ケイさんも一緒?」
「当たり前だろ。こんなところで放り出したりしないよ」
「だって、実家に帰るまでって……」
最初そういう約束だったし。ここでお別れだとすっかり思い込んでいた。
そう言ったら、へにゃっと情けない表情で苦笑されてしまった。
ケイさん、泣かないで。俺が悪かったから。
それから気を取り直して、ケイさんが考えているこれから週末までの過ごし方を教えてもらった。
明日からまた俺に付き合って旅行を続けることはご両親にももちろん説明済みで、明日と明後日の2泊分はお父さんの伝で宿を押さえていただいたそうだ。
せっかくの連休だし遠くまで大変だから高速分くらい運転代わってあげなさい、とも言われたらしい。途中まででも送ってこい、とも。
ペーパードライバーにクネクネした山道は任せられないけど、高速なら真っ直ぐ走るだけだしな。
俺の車は契約者本人限定の自動車保険に加入しているからケイさんが運転して事故っても保険はおりないのがネックだったのだけど、今時はコンビニで短期のドライバー保険契約ができるんだとか。それは初耳。
これからの行き先は一昨日確認した通り、明日は阿蘇山経由で高千穂峡、明後日は桜島観光して霧島温泉泊、そこからは高速に乗って東京方面へ、ということだ。
鹿児島から真っ直ぐ東京行きでは疲れてしまうから、何処か途中で観光して泊まって、そこで別れよう、と言ってくれた。そんなに一緒にいてくれるとは思ってなかったから、嬉しくて声も出ずに何度も頷くだけ。
「で、途中どこで寄り道したい?」
「あー……。宮島、って、遠いですか?」
おそるおそる。ちょっと九州から行きすぎてしまう。図図しいだろうか。
顔を窺うように言ってみれば、何故か驚かれたけど。
「全然! もっと東よりでも良いくらいだよ」
じゃあその周辺で宿取っちゃうね、とスマホをいじり出すケイさんは実に行動が早い。
「厳島神社狙い?」
「それと、錦帯橋もです」
「あれ、山口でしょ?」
「近いですよ、地理的に。どっちも県境近くですから」
会社の先輩が何年か前に広島旅行に行った話を聞いてたんだけど、新幹線で広島にいって原爆ドーム見て、次の日に厳島神社行って錦帯橋見て岩国空港から帰ってくるという一泊二日の強行軍だったらしい。
その時に写真もたくさん見せてもらって、行きたくてしょうがなかったんだ。
こっちからだと、錦帯橋から厳島神社という逆コースだけど。
「宮島の方だと残ってる宿高いなぁ。岩国でも良い?」
「むしろそっちが良いです。錦帯橋ライトアップされるらしいですよ」
「え、それ見たい」
「ですよね」
じゃあそっちで、とさくさく予約手続きを済ませてくれる。
もうすっかりお任せに慣れてしまった。
ところで、安心したら急に眠くなってきたんだけど。
「カズくん、帰らないでこのまま嫁においでよ」
意識がうとうとしている中、隣の布団に入ったケイさんが耳元に囁いてくれる甘い声。
そうだね、付き合い始めた途端に遠距離突入だし、弱音も吐きたくなるよね。
頷いてしまいたいのはやまやまなんだけど。それは流石に電撃すぎる。ちょっと離れて落ち着いて考えてからにしたいかな。仕事のこともあるし、実家のこともあるし。今の感情に流されるわけにはいかない。
「んぅ……まえむきに、けんとう、しま……」
最後まで言いきれたかな。眠気ピーク。もう無理。
おやすみなさい。
意識の端っこで、額にチュッとキスをくれたケイさんがそっと部屋を出ていったような気がするけど。
夢の中の出来事かもしれない。
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