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1-3 ひとつ屋根の下

カーテンの隙間から、光の柱が2人の間に差し込んでいた。 珍しく彼より先に目を覚ましていたナナメは時間までその顔を観察することにして 暗殺者のように息を殺して隣に潜んでいた。 もっと身体を寄せて、その腕の中に潜り込んで 彼の香りに包まれて二度寝と洒落込めたならどんなにいいだろうな、と思う。 自分にはそれは許されない。 細く伸びた光の柱が自分達を分けているようで、 どこか悲しい気持ちが沸き起こる。 それでも彼から目が逸らせない自分の浅ましさが、心底嫌いだった。 「ん……」 穴が開くほど邪な目で見続けたせいか、目覚ましのアラームが鳴る前に彼は目を開いた。 ぼうっとこちらを見つめられ、ナナメは誤魔化すように笑みを浮かべた。 「……今何時だ…?」 「うーん、あと30分くらいですかね?」 目が覚めた時に確認した時間を思いながら体感で答えると、 ヨコは気怠そうに身体を動かした。 仰向けになってしまった彼を目で追う。 「まだ水曜日か……」 ヨコは額に腕を乗せて絶望したように呟いている。 気ままに家で仕事をしているナナメとは違って 彼はあくせく働く会社員で、自他共に認める社畜であった。 ナナメはなんと返していいかわかず苦笑する。 そんなナナメをチラリと見ては、ヨコはこちらに身体を向けて手を伸ばしてくる。 彼の腕がナナメを引き寄せて、あっさりと願望は実現した。 「よ、よこさん…?」 準備していなかったため焦りながらも、彼の体に触って良いものかと手のやり場に困っていると 眠そうに唸りながら、頭を撫でるように抱きしめられて 顔が熱く火照った。 「……晩御飯、何がいい…」 「あ、え…?えーと……」 眠そうな声がボソボソと喋っている。 頭にキスされているような気がして、うまく思考が回らない。 「…なんでもいい以外だぞ」 答えを急かされながらも ナナメは怖々と彼の胸に触れ、時間よ止まれと頭の中で神に祈った。 「…えと、お、オムライス…」 「またか…ほんと好きだなぁ…」 ええそうです。 俺はあなたが好きなのです! ナナメは頭の中で叫び散らかした。 やがて彼の携帯端末からけたたましい音が鳴り始め、 ヨコはため息をつきながらもナナメを解放して上半身を起こし端末を宥め始める。 永遠なんてないことは分かっていながらも、どこか寂しさを感じ ナナメは彼の背中を見つめた。 彼は辛そうに両手で顔を覆っていたが、やがて諦めたように手を下ろし 未だ横になっているナナメの頬を両手で掴んできた。 「よし、起きるぞ」 ぐい、とナナメの両頬をつねると 勢いよく布団から飛び出して行ってしまった。 取り残されたナナメは、彼につねられた頬がちょっとだけじんじんと痛むのを感じながら 惚れてまうやろぉと枕の中で叫ぶのであった。

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