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1-6 ひとつ屋根の下

電車にすし詰めにされ、押し流されるように歩き、灰色に輝くビルへと押し込まれる。 なんてことのない人生だと思う。 働く理由もよく分かっていないし、これといった目標なんてものもない。 それでもさも自信たっぷりであるかのように肩で風を切って歩いていくしかないのだ。 ヨコは死んだ表情筋を更に死なせながらいつも通りの景色を網膜に写し、 頭で考えるよりも身体が先に出ているような状態で エレベーターのボタンを押して、自分の部署がある階で降りた。 すれ違う人々に軽く挨拶をし、途中で他部署に捕まり所用を仰せつかったりして 朝から気が思いやられながらもフロアーの端まで歩いて行った。 たった一枚の仕切りの中に、向かい合わせに4つ並んだ机が置いてある。 一番整頓され、PCや少しのファイル以外はほとんど何も乗っていない机には眼鏡をかけた女子社員、雨咲が座っていた。 彼女はいつも1番乗りではあるのだが、他の二つの席はまだ空いている。 彼女はヨコに気付くとペコリと頭を下げた。 「おはようございます、真壁課長」 「おはよう…」 ヨコは返事をしながらも彼女の斜め向かいの自分の席に荷物を下ろした。 「裾川さんは上の階に駆り出されました」 雨咲は手を動かしながら抑揚のない声でそう伝えてくる。 「またか…全く…」 自分の向かいの席のSE裾川は、 嫌がらせのような頻度で他の部署からお呼びがかかってしまう。 彼が大変優秀であるのは間違いないのだが、それゆえに彼が不在だと少々痛手であった。 PCを起動している間に荷物を整理し、席に付く。 この窮屈な椅子に縛り付けられる時間がスタートしてしまったと思うと些か憂鬱であったが手は動かさねばならない。 「おはよーございま」 間伸びした声が転がり、よれよれのスーツにボサボサの髪の男が欠伸をしながら入ってくる。 その漫画のような出立ちにヨコはため息を零した。 「す、まで言え?」 「すー」 「ミナミさんまた寝坊ですか?」 「え?今日は間に合ったしょ」 「遅刻10秒前ですよ。間に合ったとはいえません 5分前には来てください」 「えーそんな早く来れないって」 「もっとやる気を出してください」 ゆとり世代の申し子のような部下のミナミは、雨咲に小言を言われながらも隣の席に付いた。 神出鬼没の裾川にゆとりなミナミとキッチリしているが当たりの強い雨咲。 この頼れるのか頼りないんだがよくわからない3人が一応この部署のメンバーであった。 1年半ほど前に会社の謎の意向で立ち上がったこの部署をほとんど押し付けられる形で任されてしまい 同期の中では異例の出世だと持て囃されたりはしたが、現実は結構残酷で 中には少々あくの強いメンバーを嘲笑い、度々問題を起こすゆえにお荷物課と揶揄する連中もいる始末だ。 別に出世を望んでなどいなかったのだが、こうなってしまっては仕方ない。 少しでも文句を言わせないために 目の前に次々とやってくる仕事をこなしていくしかないのだ。

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