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1-11 オムライス。

つまらない大人だから、 必然的に優先順位は仕事になる。 好きこのんでやっているわけでもない事に大半の時間を注ぎ込んで、 それこそ人生まで懸けているぐらいには 精神も能力も突っ込んでいる。 パソコンの画面に映し出された文字を追い、何度も修正を繰り返して ようやくキーを叩いて次の文章を打ち込み始める。 こんなことを続けてもう10年近くなるだろうか。 とにかく田舎と実家から逃げたくて、狭い世界を飛び出したのが18歳。 物書きになるという誰にも言えなかった目標を抱えながら、バイトと学業に明け暮れて 疲れ切った思考の中都会のよくわからない大人の世界にずるずると引き込まれ 気付けば、折角得られた大義名分の大学を辞めていた。 当然死に物狂いで説得した家族にそんなことを言えるわけもなく とにかく出来ることをやっているうちに、薦められたのが官能小説という世界だった。 元々目指していたジャンルは鳴かず飛ばずだったのに そっちの道は何故かはまったらしく 五虎七瀬という名前で20歳の時にデビューし、新人賞まで取ってしまい なんやかんやと続けて来られていて 世の中的には上手く行っている部類に入るのかもしれない。 ジャンルは違えど、一旦の目標は叶っているわけで このまま出来る限りこの生活が続いてくれればとは思う。 それは凄くありがたいことで、きっと他所から見れば羨ましい事でもあり それゆえにそれ以上の願望を想像することが恐ろしくもあった。 “愛しているんだ”そんな言葉を打ち込みながら、苦笑する。 自分はうまくいっていないのに、嘘つきだ、などとつい卑下してしまって 深いため息を零した。 「あーあ…俺もうダメかも……」 マイナスなことを言いながら椅子にもたれかかって天井を仰いだ。 山積みの本に囲まれた狭い部屋は、まるで巣窟のようで それでも自分にとっては最高の職場だった。 一生ここで一人で妄想して嘘をついて、生きていくと思っていたしそれに満足していた。 恋愛だってセックスだって芸の肥やしで、ただのネタの一個にすぎない。 そんな下賎なやり口だから 怒って離れていかれるのも口汚く罵られるのも致し方ない、と。 思ってはいたんだけど。 椅子の上で膝を抱えながら、 昨日のことを想ってまた泣き出しそうになった。 「最近してないな……」 向こうだって忙しいのはわかっているし 本当は、身体を重ねるだけじゃ飽き足らなくなっているくせに。 もしかしたらこれ以上近くにいたらもっとよくないことになるかもしれない。 自分の制御が効くうちに離れる方が得策ではないか?と。 でもそんな恐ろしいことを伝えられるだろうか。伝えるとしてなんと言って伝えたらいいのだろう。 好きすぎるので、出て行ってください? それも勝手な話だろうか。 ワガママになり始めた自分のことが心底嫌いになって ナナメはまたちょっとだけ涙を流すのだった。

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