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1-14 オムライス。

「わぁ…オムライス…」 食卓には昨日約束を破られたはずのオムライスが並んでいて、ナナメは思わず顔が綻んでしまった。 「昨日作れなかったからな」 ヨコはそう言いながらも椅子を引いて着席し始める。 こうやって自分の好物を忘れずちゃんと作ってくれる事が素直に嬉しくて ナナメはまた泣きそうになりながらも自分も椅子に座った。 「…ありがとうございます」 「ん。冷めたかもしれん、早く食え」 素晴らしい焼き加減の卵に包まれ、ホワイトソースのかかったオムライスを前に、 ナナメは両手を合わせて挨拶をしスプーンを手に取った。 まず卵を割ることすら困難なナナメにとっては、何一つ構造が理解できない皿である。 一口含むとその素晴らしい味に思わず視界が輝いてしまう。 「…美味しすぎる!」 思わず感動してしまうが、 ヨコは死んだ表情筋を一切動かすことなく、そうですか、とでもいうように肩を竦めている。 元々お腹が空いてはいたのだが余計に空腹を思い出してしまいぱくぱくと口に運びながら ナナメは大変幸せになってしまうのだった。 「最高…ヨコさんのご飯…毎日食べたい…」 「食ってるだろ」 本当にその通りではあるのだが、ナナメ的には今後一生そうであってほしいと思っていた。 それが叶わないと分かっているから尚更。 「ん、お昼も美味しかったです!特にお漬物、久々に食べました 自分じゃ買わないし、なんか感動しちゃって」 ヨコはいつも自分の弁当を作るついでに昼食も作ってくれていて、 本日のおにぎりと佃煮と味噌汁という昼食が最高だった旨を伝えずにはいられなかった。 「あれってどこのですか?」 「漬けた。」 「え?」 「自分で漬けた。」 また激ヤバなことを言い出されナナメは瞬きをしながらも、 涼しい顔でスープを飲んでいる彼を見つめた。 「な…何故…」 「何故って、…別に、漬けたかったから。 …美味かったか?」 「はい…とっても……」 「ならよかった」 平然とそんなことを言う彼に、 生まれてこの方漬物を自分でつけようという発想すら持ち合わせていなかったナナメにとっては 好きを通り越して尊敬ではあるのだが、 だからこそ余計に寧ろ結婚してくれんかと心の内側で叫び散らかしてしまう。 同時にそんな彼に対して何にもできていない自分が少し情けなくなった。

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