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1-19 あなたと俺の齟齬

すると目の前のドアが勢いよく開いて、そこにはヨコが立っていた。 ジロリとこちらを睨まれて、ナナメは余計に涙が出てきそうになり思わず下を向く。 「考えたけど分からんから来てみれば… 何やってんだお前は」 ヨコはどこか怒ったように低い声を出していて 泣くな泣くな。 散々泣いただろ、とまた自分を叱咤しながら頬を拭った。 「なんでもない…です…」 「どこがだ!」 ヨコはこちらに来ると、ナナメの身体を抱きしめてくれて そんなことをされるとせっかく止めようと努力していた涙がますます溢れてきてしまって。 「何が気に障ったか分からんけどな… そんな風に泣かれると困る、色々と…」 「う…ごめんなさ…」 ナナメは彼の胸の中にいることを喜んでいる自分の浅ましさに吐き気すら覚えた。 こんなに、こんなに優しい人なんだから。 もう手遅れで、 もっと早く離れなくてはならなかったのかもしれない。 ヨコはナナメの頭を両手で掴んで、泣きじゃくるナナメの頬を撫でるように顔を合わせてくる。 「…どうした?まあ俺のせいだろうが…」 「ちが…ヨコさんはわるくなくて…俺が、バカだから…」 涙を拭われながらナナメは必死に首を振った。 そんな風にされると言ってはいけないことを言ってしまいそうになる。 そんなことを言っても余計に困らせるだけなのに。 「ヨコさん、俺のこと怒って…、怒ってください、」 「怒る理由がない」 「あ、ありますもん、…俺、自分勝手で、自分のことばっかで…っ」 しゃくり上げながら必死に言葉を紡いで、頬を撫でる彼の手に自分の手を重ねながら 目を逸らさないでいてくれるこの時間が一生続けばなどと傲慢に考えてしまう。 「っ、おうえん、しなきゃ、いけないのに、」 ヨコはどれだけ拭っても溢れ続ける涙で掌を濡らし続け、やがてため息を零した。 「全然分からんな…もう分からんからいいわ。 俺が怒られることにする」 「へ…」 ヨコはどこか諦めたように呟き、ナナメの唇を奪った。

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