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1-25 トラウマといまから

ごめんなさい、ごめんなさい。 好きになってごめんなさい。 夢の中で、でっかい熊のぬいぐるみを抱えた美少女になっていた。 街を歩けば誰もが振り返る。 それらを全て無視して、足が行く先は1人の男の元。 あなたのことが大好きですと伝えるために、息を弾ませ走っていく。 スーツ姿の彼の目の前までくると、 熊のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて思いを伝えようと口を開いた。 彼を見上げて、すぐに口を閉じる。 その男の目には自分など映っていなかった。 まっすぐ向けられた視線を追うと、そこには別の女性が立っていた。 自分とは正反対のグラマーでショートカットで、大人の色気が漂うお姉さんだった。 レースクイーンのようなお姉さんは、 熊のぬいぐるみを一瞥すると鼻で笑った。 「わかっていたのになあ…」 呟いて、熱心な視線をレースクイーンに送る男の横顔を眺めた。 どんなに桃色の片思いを可愛く歌える容姿になっても、おっぱいには勝てないんだよ。 熊のぬいぐるみが呟いた。 悔しくはなかったが、 ただどうしようもなく悲しくて、静かに泣いた。 好きになってごめんなさい。 苦しいだなんて思って、ごめんなさい…。 暗闇の中で、泣きじゃくった。 好きになんて、なっちゃダメよ。 そんな声を遠く、聞きながら。 烏滸がましいから 俺はきっと、 いつもうまくいきようがない。 好きになんてなっちゃダメ。 そうだね、だから 好きにならなくていいよ。 こんな、俺のことなんか。 好きにならないで。

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