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1-28 トラウマといまから

結局昼過ぎまで寝てしまった。 ベッドから這い出て、気を遣いながら階段を降り、 シャワーを浴びて、今度はちゃんと髪を乾かした。 空腹を感じてリビングに行くと、テーブルの上にラップをされた皿が乗っていた。 「......ううぐ、ヨコさん..」 思わず変な声が溢れてしまった。 朝から作っていってくれたらしい。 目玉焼きとサラダ、コンロの上に乗ったままの小鍋にはスープも入っていた。 食パンを焼き、スープを温め直してカーテンを閉め切った薄暗い部屋で食べた。 もう帰ってこないかな? 不意にそんな事を思ってしまう。 そしたら彼はその好きな人のところに行くのかな。 あんな風に気持ちを伝えたりして、きっとすごく困ったに違いない。 だから抱いてくれたのかな。 最後、みたいな。 「さいご…」 胸が締め付けられて、散々泣いたのにまた泣きそうになる。 何でこんなことになったんだっけ。 余計なことなんか、言わなきゃよかった。 しかし、後悔しても遅かれ早かれこうなっていたはずなのだ。 瞼に痛みが走って、いい加減にしなければと思いながら 目をギュッと閉じてスープを流し込んだ。 もしかしたら、彼の美味しいご飯が食べられるのもこれが最後なのかもしれないと思ったら 無くなってしまったスープがもったいなく感じて 空っぽになった器を見下ろして、唇を噛んだ。 好きになんかならなきゃよかった。 よりによって、あんな素敵な人。 好きになんか。 「……俺ってバカですよね…」 こうやってわざわざ、自分から不幸になる道ばかりを選択して 辛くなって苦しくなって、そして……。 ナナメは胸にザワザワとした感覚を感じて勢いよく立ち上がり、食器を洗ってしまうと またあの本で圧迫された仕事部屋へと走った。 自分は、本当に、恋愛を食い物にする最低の変態で 最初からなんの資格もないのだ。 彼に愛される資格も、隣にいる資格も、好きだと言う資格も 本当は何もない。 きっと本当は、近付くことだって。 パソコンの電源がつき、真っ白な画面に辿り着くと カチリと自分の中のスイッチが入る音が聞こえた気がした。 「ほんっとに、最低」 辛くなって苦しくなってそして。 何もかも終わったような絶望の中で、 せめて愛されようと紡がれる言葉が、 世界を 構築していく。

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