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1-31 トラウマといまから

ナナメはあれからぶっ通しで書き続け、気付けば深夜になっていて 体力の限界が来てベッドに倒れ込みそのまま意識を失った。 明け方、少し早い時間に目が覚める。 同居人は隣にはおらず、ナナメはどこか絶望しながらも 一人きりの朝に呆然と取り残されていた。 「…ダメだ…ちゃんとお風呂入って…ご飯食べないと…」 少し彼がいなかっただけでも人として最低限の生活すらできなくなってしまう。 ナナメはのそのそとベッドから這い出して、部屋のドアを開けた。 ヨコさん、本当に帰ってこなかったのかな。 早朝の家の中は静まり返っていて、なんだか夢を見ているようだった。 階段をダラダラ降りていると、バタバタと騒々しい足音が響き渡り 廊下から大荷物を抱えたヨコが走ってきた。 「ヨコさん…?」 彼はどこかテンパっている様子でこちらに気付くと、駆け寄ってくる。 「急だが出張が入った、九州に3日ほど」 彼の言葉にナナメは色々と考えてしまって、 無理矢理微笑んで首を傾けた。 「あー…そうなんですね…?」 「すまん今日の分しか作れなかった」 「…いいですよ俺のことはお気になさらず」 言い訳、なのだろうか。 なんでもいいけど気を遣わせている事が申し訳なくも、心がざわざわとして それでもなんでこの人はこんなに顔がいいのだろうなどと どうでもいいことを考えてしまう。 「ナナメ、」 ヨコは階段の途中で立ち止まっていたナナメの元に駆け上がり 大荷物を持った手でナナメの肩を掴んでくる。 「帰ってきたら、どっか出かけような!?」 「は…はぁ…」 「よし、約束したからな!どこ行きたいか考えとけ!」 「え…?」 彼はそれだけを言い残し、またバタバタと走っていき 雑に靴を履きながらそのまま玄関のドアを開けた。 「行ってきます!!!」 風のように去っていってしまって、ナナメは暫くぼうっと彼のいなくなった玄関を見つめていた。

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