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1-36 残していって。
キッチンに行くと案の定冷蔵庫の中はお亡くなりになっていて、
一体彼はこの数日どうやって過ごしたのかと思うと恐ろしい。
どうせカップ麺とかでやり過ごしたに違いない。
「んー…そう、だなぁ…」
ヨコは冷蔵庫を調べ尽くし、戸棚なども開けてなんとか食材を掻き集めた。
一食分ぐらいならなんとかなりそうだ。
きっと彼がいなかったら着替えもせずに寝ていたに違いない。
本当に、放っておけなくてもう底を尽きたはずのエネルギーですら不思議と湧いてきてしまう。
自分をこんな風にさせてしまうのはナナメ以外には居ないだろう。
甘えてばかりだ、と彼は言っていたけど
怒るでもなく教え説くわけでもなく、
ただそこにいるだけで自分を正しい場所に戻してくれて
受け取って、照らして、まるでこの世で一番いいものであるかのように享受してくれることは、
誰にでもできることではないように思える。
少なからず自分は間違いなく彼に、救われている。
手を動かしながら彼のことを考えると、心が穏やかになっていって
死んだ表情筋が少しだけ緩んでしまう。
ヨコは勝手に幸せになりながら、作業を進めるのだった。
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