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1-38 残していって。

きれいな透明の雫を溢れさせながら、ナナメは顔を赤くしていて 暫く見つめ合っていた。 ヨコはいよいよ彼をめちゃくちゃにしたくなったが、我慢していると 頬を掴んでいた両手を引き剥がされる。 「嘘…」 ナナメは後ずさって、後ろの棚にぶつかる。 「嘘じゃない」 「…嘘ですよ!そんなことあるわけない」 「あのな、俺の気持ちは無視か?」 「だって俺、は、ヨコさんの弱みに漬け込んで ひ、ひどいことして…それなのに、居なくならないでとか 勝手なこと、ばかり言って、困らせて…」 ひどいことをしたのはどちらかといえば自分のような気がしなくもなかったが、 ナナメは両手で顔を覆って泣き始めた。 「…そうだな、最初は忘れられればなんでもよかったのかもしれない。 それなのに俺は、勝手に好きになって勝手に居座って、しかもこんなに泣かせてる。 自分勝手なのは俺の方だ。だから、ごめん」 彼の頭を撫でながら、本当はこんなことすら許されないのかもしれないとすら思う。 もっともっと最初から、大切にできていれば。 そんな戻らないことばかりを後悔しているから、また泣かせてしまっているのかもしれない。 「意味わかんない…」 「はぁ…そうかもな。俺はお前に好かれる資格ないかもな」 「違う、ヨコさんは、誰にだって好かれるはずですし ちゃんと愛されるべき人で、こんなとこにいちゃいけなくて、 だから俺はちゃんと背中を押してあげなきゃいけないのに… それができない、最低野郎だから、資格がないのは、俺の方で…」 彼の複雑な思考回路は10分の1も理解できないが、 ヨコは彼が死ぬほど自信がない人間であることを思い出し 深々とため息を溢して顔を覆う両手を剥がすように手首を掴んで、後ろの棚に押し付けた。

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