49 / 121

1-48 ファーストタイムデートデート

「ごめェん待ったァ?」 えらくドスの聞いた声が響き渡り、ふぎゃぁ!と左は飛び退く。 左の背後にいつの間にかヨコが立っている。 「あ、ヨコさん!」 ヨコの顔が見えたことが嬉しくてナナメは、 今来たとこだよ(爽やか)を忘れてしまうのだった。 「ヤァ左くん。まだ居たんだ。この世に」 ヨコは左を退かすようにしてナナメとの間に入ってくる。 「ひっどぉい僕たち相当デスティニーなのに〜」 「そのよく回る口と揃ってない丈を縫い付けるミシンが欲しいなァ」 「こういうおしゃれだしぃ〜」 ヘラヘラしている左と、いつもより饒舌に見えるヨコには 少々の羨ましさを感じるナナメであった。 「で2人はどこ行くの?初デートっしょ」 初デート、と言われナナメはつい顔が赤くなってしまうが ヨコは嫌そうにため息を溢している。 「えーと公園にでも行こうかなと」 「公園?フリスビーでもすんの?…あ、わかった! 花輪でも作るんでしょ!てかでも今秋じゃんシロツメクサ咲いてなくない?」 「いえ紅葉でも見にいこうかと…ね、ヨコさん」 自分の2倍ベラベラ喋る左に笑いながらナナメはヨコを見上げた。 彼は相変わらず表情筋を死なせていて、真顔だった。 「はっ?紅葉???」 左は瞬きを数回して2人の顔を交互に見る。 「ヨコ提案でしょそれ!おじいちゃんすぎ! もっとなんか映えるとこ連れてけ?」 「シロツメクサで花輪デートする奴に言われたくない」 「映えるっしょ花輪は!」 「紅葉も映えるだろうが」 「あ、ちょい待ち」 不毛な言い争いの最中、左は片手を前に出すと、 左右非対称のアウターのポケットに手を突っ込んだ。 「あれどこやったっけ、えーと」 何かを探しているように服をさわさわと探り、 やがてギターと共に背負っていたリュックを探り始める。 そして何かの封筒を取り出すと、そこから紙を取り出した。 「あったこれ!あげるから2人で行ってくれば」 細長いチケットのような紙を差し出されて、ナナメはそれをおずおずと受け取った。 カラフルでポップなデザインのチケットは、ライオンの写真がプリントされている。 「ど、うぶつえん....?」 「動物園てお前...男2人だぞ…」 ヨコは呆れたように呟いているが ナナメはそんなベタなデート場所に自分なんかがヨコと赴く事を想像してしまい また頭がふわふわとなり始める。 「動物園なめんなよ! キリン超可愛いから〜めっちゃ睫毛長いから〜」 左は口を尖らせながらキリンの可愛さを語っている。 「ありがとうございます左さん…動物園…うれしい…」 ナナメは思わずふわふわしたまま彼に笑顔を向けてお礼を言うと、 いがみ合っていた2人は口を閉じナナメを見下ろしてくる。 「ナナメ……」 「ほれみろ。可愛い子はこういうの好きなんだっつーの」 「まさか自分も含めてないよな?」 またイチャイチャし始める2人に、ようやくふわふわから戻ってきたナナメは 自分だけ盛り上がっているような気がして俯いてしまう。

ともだちにシェアしよう!