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1-50 ファーストタイムデートデート
動物園なんて記憶の限り一度も行ったことが無い気がする。
小学校の時の遠足とか、そのぐらいだろうか。
そんな事を考えながら電車に揺られ、流れる景色を眺めるヨコであった。
幸い天気も良さそうで、外を歩いてもそんなに凍えずに済みそうだ。
「ヨコさんと左さん、仲良いですよね」
並んで座って、電車に揺られながらさっきの事を思い出したのかナナメはくすくすと笑っている。
どこをどうみれば仲が良く見えるのか、ヨコは眉間に皺を寄せた。
「…あいつの言ってることは話半分で聞いてくれ」
過去のことなど余計な脚色を付けて話されたら困る。
あの減らず口マシーンとは中高大とたまたま一緒でたまたま同じクラスが続いただけで好き好んで一緒にいるわけではない。
勝手に向こうが纏わりついて来て今では近所に住んでいるだなんて、何かの呪いに違いないとすら思っている。
「ふふ、でも左さんのお陰でヨコさんと出会えたんですから
左さんには本当に感謝ですよ」
彼の言うことは悔しいがその通りではある。
たまたま偶然居合わせたとはいえ、引き合わせたのは左なのだ。
「お前とあいつが仲良いのは驚きだけどな…」
「あー引っ越してきたばかりの時に色々教えてもらって、
あの辺に住んでるのって家族連れとかが多いから
なんかお互いに親近感〜みたいな」
確かにその若さで一戸建てに住む人間というのは限られているだろう。
左は彼の恋人がヤケを起こして住み始めた、
一人暮らしでは有り余る家に転がり込んでいるというどこかで聞いたような状況なのだが
彼もそこそこ名の知れた音楽家なので、おかしくないと言えばそうなのだろうけど。
「で、話してる内に左さんが俺の小説読んでくれてる事が判明しまして…」
「もしかしてエロ小説…?」
「う…官能、小説です…」
ナナメは言い直して恥ずかしそうに俯いた。
左の気色の悪い趣味は知らないが、
ナナメもまたあんな家に住んでいるくらいだから何かしら秀でた人間なのだろうとは思ってはいた。
しかしまさか官能小説とは。
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