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1-53 いつか王子様は、

「ヨコさん…あの、 動物園…一緒に行ってくれて嬉しかったです」 ナナメは風に揺れる髪を耳にかけながら呟いた。 「俺のわがまま聞いてくれて…ありがとうございました」 こんなのは全部、わがままだ。 ナナメは、やっぱり彼の言ってくれた気がする”好き”が幻聴か 或いは何かの勘違いだと思えてならなくて。 性欲を好きだと錯覚するのはよくある事で、 そんなのは自分だってこれまで散々利用してきたではないか。 もしかするとそうやって狡く立ち回ってきたツケが回ってきたのかも知れない。 「…わがままじゃないだろ 寧ろもっと言って欲しいくらいなんだが」 自分が欠点だと思っているところも、関係ないと言ってくれて 困らせてばかりなのに、懲りずに付き合ってくれて。 本当に、自分なんかにこんな風に言ってくれる優しい人を 独り占めしたいだなんて傲慢にも程がある。 それでも少しだけ、少しだけこの状況に甘んじて 少しだけ、少しだけ彼を独占させてもらえたから。 もう苦しんだりしない、こんなにたくさん貰ってしまったから 彼が居なくなっても、これを抱えて生きていけるはずだ。 だってこんな幸せなんか本当は、受け取っちゃいけない。

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