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1-54 いつか王子様は、
「ヨコさん…」
ナナメはつい彼の服の裾を掴んでしまい、立ち止まる彼を見上げた。
「…ヨコさんが好き、それが俺の最大のわがままです…
でもずっと、好きでいさせてもらえるなんて、思ってないですから、
だからいつでも、俺のこと………」
もうこれ以上ないくらいだから。
今度こそ彼がどこかへ目を向けた時には、笑って応援してあげられるように。
「はぁ?…あんだけ言ってまだわかってねえのか…」
「……ヨコさんは俺には勿体無さすぎるから…」
ヨコは深くため息を溢していて、
また困らせてしまっているのかと不安になってしまう。
「あのなぁ、俺はそんな大したやつじゃないし
お前の基準は知らんけどな、そんな風に勝手に決めんな」
ヨコはこちらに向き合うと、ぐい、と両頬を抓ってきて
ナナメは泣きそうになりながら目を細めた。
「お前が俺と居たくないのなら話は別だが?」
「そんなこと…ない、けどでも、そんなのやっぱり、ダメじゃないですか…」
「何がダメなんだよ。ダメって勝手に決めてんのもお前だろ」
彼が本気で自分を選ぶなんて、そんな事を願ってはいけない。
それなのに、どうして。
ナナメはいよいよ視界が滲んでしまって、
複雑な思考回路の中をもがいていた。
「あーもう、なんでそう、物事をややこしく捉えるんだ…」
ヨコは両手を離して、頭を抱えている。
ナナメはどうしたらいいか分からず俯いた。
なんでいつも自分はこうなのだろう、とすら思う。
それでも怖くて。
この人を独占したいのに、そんな事をしてしまったら良くない気がして。
或いは、
いつか置いていかれる。
その傷を今から軽くしておこうという狡い魂胆なのかもしれない。
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